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【易経】第28卦「沢風大過(たくふうたいか)」– 過大な重圧を乗り越え、非凡なる力で未来を拓く

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【易経】第28卦「沢風大過(たくふうたいか)」– 過大な重圧を乗り越え、非凡なる力で未来を拓く


1. 卦象(かしょう):

2. 名称(めいしょう): 沢風大過(たくふうたいか)

4. 【この卦のメッセージ】
 上卦(じょうか):兌(だ) – 沢、喜び、悦楽、少女、口(言葉)
下卦(かか):巽(そん) – 風、木、入る、従順、長女
全体のイメージ: 下にある柔順な風・木(巽)の上に、潤いと喜びをもたらす沢(兌)が位置しています。しかし、この卦の特異な点は、六つの爻のうち、初爻と上爻の二つの陰爻が弱く、その間に四つの強い陽爻が挟まれている形であることです。これは、まるで建物の棟木(むなぎ)が中央部分だけ非常に太く重く、両端の支えが細くて弱い状態に似ています。そのため、棟木は重さに耐えかねて撓(たわ)み、今にも折れそうな危機的な状況を象徴しています。「大過」とは、まさに「陽が大き過ぎる」「重荷が過大である」という意味です。 また、沢の水が下の木を覆い尽くし、木が水浸しになって腐りかけている、という解釈もできます。いずれにしても、バランスが崩れ、何かが「行き過ぎている」ために、大きな困難や危険が生じている、非常事態を示唆しています。しかし、このような時だからこそ、非凡な手段や決断が求められ、それを乗り越えることで新たな道が開かれる可能性も秘めています。

卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ

原文(漢文): 大過。棟橈。利有攸往。亨。

書き下し文:大過(たいか)は棟(むなぎ)橈(たわ)む。往(ゆ)く攸(ところ)有(あ)るに利(よろ)し。亨(とお)る。

現代語訳: 大過の時は、まるで棟木が重さに耐えかねて撓んでいるような危機的な状況である。しかし、このような時こそ、勇気を持って目的の場所へ進んでいくのが良い。そうすれば願いは通る。

ポイント解説:
この卦辞は、まず「棟橈む」と、状況が非常に危険で、バランスが崩れていることを率直に認めています。しかし、その後に続く「往く攸有るに利し、亨る」という言葉は、この危機的状況を打開するためには、むしろ通常ではない大胆な行動や、困難な道(往く攸)へ果敢に挑戦することが有効であり、それによって最終的には成功(亨る)を掴むことができる、という逆説的ながらも力強いメッセージです。尋常ならざる時には、尋常ならざる手段が必要であり、そこに活路が開かれることを示唆しています。

爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語

初六(しょりく):

藉(し)くに白茅(はくぼう)を用(もち)う。咎(とが)なし。

原文:藉用白茅。无咎。

書き下し文:藉(し)くに白茅(はくぼう)を用(もち)う。咎(とが)なし。

現代語訳:物を下に敷くのに、清浄な白い茅(ちがや)を用いるように、慎重である。そうすれば咎めはない。

ポイント解説:
「大過」の時の始まり。まだ危機は深刻化していませんが、足元が不安定な状況です。このような時には、大切なものを下に置く際に、清らかで柔らかい白い茅を敷いて丁寧に扱うように、何事にも細心の注意を払い、慎重に行動することが求められます。謙虚な心で、基礎を固め、慎重に進めば、咎めを避けることができます。

九二(きゅうじ):

枯楊(こよう)稊(ひこばえ)を生(しょう)ず。老夫(ろうふ)其(そ)の女妻(じょさい)を得(う)。利(よろ)しからざるなし。

原文:枯楊生稊。老夫得其女妻。无不利。

書き下し文:枯楊(こよう)稊(てい)を生(しょう)ず。老夫(ろうふ)其(そ)の女妻(じょさい)を得(う)。利(よろ)しからざるなし。

現代語訳:枯れた柳の木から新しい芽が出る。年老いた夫が若い妻を得る。何事においても不利益なことはない。

ポイント解説:
危機的な状況(大過)の中にも、予期せぬ再生や新しい希望が生まれることを示しています。枯れた柳から新芽が出るように、あるいは老夫が若い妻を得て新しい活力を得るように、困難な状況下でも、思いがけない助けや新しい可能性が現れることがあります。希望を捨てず、柔軟な心でいることで、万事において良い方向へ進むでしょう。

九三(きゅうさん):

棟(むなぎ)橈(たわ)む。凶(きょう)。

原文:棟橈。凶。

書き下し文:棟(むなぎ)橈(たわ)む。凶(きょう)。

現代語訳:棟木が重さに耐えかねて撓んでしまっている。凶である。

ポイント解説:
この爻は、まさに「大過」の中心であり、過大な重荷やプレッシャーによって、支えきれずに建物が崩壊寸前(棟橈む)となっている、非常に危険な状態です。この状況で、もし適切な対処を怠ったり、さらに無理を重ねたりすれば、凶運は避けられません。自分の限界を認識し、無理をしないこと、そして早急な対策を講じることの重要性を示しています。

九四(きゅうし):

棟(むなぎ)隆(たか)し。吉(きち)。它(ほか)有(あ)らば吝(りん)。

原文:棟隆。吉。有它吝。

書き下し文:棟(むなぎ)隆(たか)し。吉(きち)。它(た)有(あ)らば吝(りん)。

現代語訳:棟木が高く支えられ、安定している。吉である。しかし、もし他のよこしまな考えや私欲があれば、恥ずべきことになる。

ポイント解説:
九三の危機的な状況から一転し、棟木がしっかりと支えられ(棟隆し)、安定を取り戻した状態です。これは、適切な支援や補強、あるいは賢明な判断によって危機を乗り越えたことを示し、吉です。ただし、この安定に安住し、もし私欲やよこしまな考え(它有らば)を持つようになれば、再び困難を招き、恥ずべき結果(吝)となるでしょう。成功の時こそ、心を正しく保つことが重要です。

九五(きゅうご):

枯楊(こよう)華(はな)を生(しょう)ず。老婦(ろうふ)其(そ)の士夫(しふ)を得(う)。咎(とが)もなし譽(ほまれ)もなし。

原文:枯楊生華。老婦得其士夫。无咎无譽。

書き下し文:枯楊(こよう)華(か)を生(しょう)ず。老婦(ろうふ)其(そ)の士夫(しふ)を得(う)。咎(とが)もなし譽(ほまれ)もなし。

現代語訳:枯れた柳の木に花が咲く。年老いた婦人が若い夫を得る。特に咎められることもないが、ことさらに賞賛されることもない。

ポイント解説:
九二と似て、困難な状況の中で予期せぬ再生や新しい喜びが訪れることを示しています。枯れた柳に花が咲く、あるいは老婦が若い夫を得るというのは、通常では考えにくい、珍しい幸運です。これは、自然の摂理にかなったものであり、咎められることではありませんが、だからといってことさらに賞賛されるような華々しい成功でもありません。静かな喜び、穏やかな幸運の時です。

上六(じょうりく):

過ぎて渉(わた)り頂(いただき)を滅(けっ)す。凶(きょう)なれども咎(とが)なし。

原文:過涉滅頂。凶。无咎。

書き下し文:過(す)ぎて渉(わた)り頂(ちょう)を滅(めっ)す。凶(きょう)なれども咎(とが)なし。

現代語訳:無理をして深みに入り込み、頭のてっぺんまで水に浸かってしまう。非常に危険で凶であるが、(もしそれが他を救うためなど、やむを得ない状況であれば)咎めはない。

ポイント解説:
「大過」の時の最終段階。もはや自分の限界を超えて、無謀な行動(過ぎて渉り)に出てしまい、頭のてっぺんまで水に浸かる(頂を滅す)ほど、絶体絶命の危機に陥っています。これは明らかに凶運です。しかし、その後に続く「咎なし」という言葉は、もしその無謀な行動が、例えば他人を救うため、あるいは大義のためといった、やむを得ない自己犠牲的な動機によるものであれば、結果として失敗しても、その行為自体は非難されるべきではない、という深い意味合いを含んでいます。

大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方

原文(漢文):象曰。澤滅木、大過。君子以獨立不懼、遯世无悶。

書き下し文:象(しょう)に曰(いわ)く、澤(さわ)木(き)を滅(めっ)するは 大過(たいか)なり。君子(くんし)以(もっ)て独(ひと)り立(た)ちて懼(おそ)れず、世(よ)を遯(のが)れて悶(うれ)うること无(な)し。

現代語訳: 象伝は言う。沢の水が木を覆い尽くしてしまうのが大過の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、困難な時には孤立しても自分の信念を貫き恐れず、また、世間から隠れ退いても不平不満を抱くことはない。

ポイント解説:
沢の水が溢れて木々を水浸しにしてしまう、まさに異常事態が「大過」の象徴です。これを見た君子は、このような非常時においては、まず「独り立ちて懼れず」、つまり、たとえ孤立無援の状態になったとしても、自分自身の内なる信念や良識を固く守り、何ものをも恐れない強い精神を持つことの重要性を学びます。そして、「世を遯れて悶うること无し」、つまり、もし時勢が自分に不利で、世間から隠遁(いんとん)せざるを得ない状況になったとしても、それを嘆いたり、不平不満を抱いたりすることなく、静かにその時を受け入れる潔さを持つべきであると教えています。逆境における、精神的な自立と平静さの極致です。

【むすび】

沢風大過の卦は、わたしたちが人生で遭遇するかもしれない「過度な困難」や「危機的な状況」において、いかにして自分を見失わず、勇気と知恵をもってそれを乗り越え、あるいは賢明に受け流していくかという、非凡な力を発揮するための智慧を授けてくれます。

沢風大過の時は、わたしたちの器の大きさが試される、まさに「大(おお)いに過(す)ぎる」試練の時です。しかし、この卦は同時に、そのような非常時においてこそ、わたしたち人間の持つ非凡な勇気、不屈の精神、そして再生の力が発揮されることも教えてくれています。この卦の智慧を胸に、どんな困難な状況も踏み台として、力強く、そしてしなやかに乗り越えていきましょう。

 

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