古代の叡智が語る「変化」と「信用」
易経は、摩訶不思議な占いの一種と捉えられがちです。しかし、英語で「Book of Change(変化の書)」と直訳されるように、その本質は森羅万象の「変化の法則」を解き明かす、東洋思想の根源です。
一説には5000年前から存在したとされるこの書物は、現代においても最も古い学問であると同時に、最も新しい学問として、私たちに普遍の智慧を与え続けています。
易経は、東洋思想における宇宙の根源法則である陰陽の法則に基づく宇宙言語です。私たちが心に定めた問いを投げかけるとき、その答えを卦という形で示唆してくれるのです。
占例設定:マーカス・ゴールドマンの信念
今回、マーカス・ゴールドマンの座右の銘の一つである「信用は金より大事」という信念の力強い思いを受けて、この言葉の真髄を問う形で卦を立てました。
問い: 「『信用は金より大事』という信念に対して易経は、どのような指針を示唆するか?」
この問いに対し、易経は次のように答えました。
【易経】 第24卦「地雷復(ちらいふく)」 初爻(しょこう)
不遠復。无祗悔。元吉。 (遠からずして復る。悔いに至ることなし。元吉。)
卦辞から読み解く:復と循環の摂理
得られた卦「地雷復」を詳しく見ていきましょう。
「復(ふく)」には、「繰り返す」、**「再び正しい状態に戻る」**という意味があります。 この卦は、寒さの極みである「地」の下に、新たな「雷」(陽のエネルギー)が芽生えた状態。つまり、最も暗い時期を抜け、希望が再生するタイミングを象徴します。
【卦辞】
復。亨。出入无疾。朋來无咎。反復其道、七日來復。利有攸往。
易経は、復(再生)の時こそ「亨る(とおる)」、すなわち願いが通じると伝えています。
ここで注目すべきは、**「反復其道、七日來復(その道を反復すれば、七日にして復る)」**という言葉です。これは、万物が七日で循環するという摂理(※一説には一週間)を述べると同時に、正しい行いを繰り返し継続することが、成功への道であることを示唆しています。
信用とは、一夜にして得られるものではなく、日々の繰り返される行動(挨拶、約束の履行、誠実な対応)の循環によってのみ、少しずつ蓄積されていくものです。この卦は、その地道な継続の重要性を教えているのです。
爻辞が示す変化の機微:即時的な自己修正こそ信用の鍵
今回の占例の核心は、この「初爻」にあります。
不遠復。无祗悔。元吉。
- 現代語訳: 道を踏み外しても、遠くへ行かないうちにすぐに正しい道に復帰(復旧)する。そうすれば、大きな後悔に至ることはない。非常に素晴らしい吉である。
これは「信用は金より大事」という信念に対する、最も具体的かつ実践的な回答です。
信用とは、一度崩れると取り戻すのは容易ではありません。しかし、この爻辞は**「道を踏み外した直後」、つまり、小さなミスや誤りがあったとしても、それを隠さず、遠くへ行かないうちに「すぐに、自発的に正しい状態に戻す(自己修正する)」ことさえできれば、それは咎めるどころか、「元吉(非常に素晴らしい吉)」**に転じると伝えています。
「信用」の価値は、完璧であることではなく、むしろ**失敗からの「回復力」と「誠実な修正力」**によって担保されるのです。マーカス・ゴールドマンの信念を貫くためには、その日のうちに、その間違いを正すという、徹底した誠実さとスピード感が重要であると易経は示唆しています。
結び:信用とは、日々の「復」の積み重ね
易経で結果が的を得ることを「中(あ)たる」といいます。
この抽象的でありながら、核心を突いた「地雷復・初爻」の結果は、偉大な信念に対する最高の答えではないでしょうか。
信用は金より大事。 そして、その信用とは、決して揺るがない盤石な信念を持ちながらも、日々の小さな過ちに対し、遠くへ行かずにすぐに正しい道へと復(戻)る、自己修正の積み重ねによって築かれていくのです。
判断に迷ったとき、あるいは自らの行動に立ち止まりたいとき、易経はあなたに的確な回答を与えてくれます。ぜひ、重大な決断をしたいときに、この宇宙言語に耳を傾けてみてください。

