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【易経】第54卦「雷沢帰妹(らいたくきまい)」– 情熱と喜びの衝動の先に、真の調和と永続を築く道

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【易経】第54卦「雷沢帰妹(らいたくきまい)」– 情熱と喜びの衝動の先に、真の調和と永続を築く道

1. 卦象(かしょう):

2. 名称(めいしょう): 雷沢帰妹(らいたくきまい)

3. 【この卦のメッセージ】
上卦(じょうか):震(しん) – 雷、動く、奮い立つ、長男 *
下卦(かか):兌(だ) – 沢、喜び、悦楽、少女 *
全体のイメージ: 下にある喜びと若々しい魅力に満ちた沢(兌、少女)が、上にある力強く動き出す雷(震、長男)に随っていく。この「雷沢帰妹」の姿は、少女が正式な手順を踏まず、一時的な情熱や喜び(兌)に駆られて、年長の男性(震)のもとへ嫁いでいく(帰妹)様を象徴しています。「帰妹」とは、妹が嫁ぐことを意味しますが、ここでは特に、通常の婚姻の秩序(例えば、姉が先に嫁ぐなど)に反していたり、感情が先行して十分な準備や合意が整っていなかったりする、不安定な始まりを示唆します。 雷は動き、沢は悦ぶ。そこには確かに一時的な華やかさや喜びはあるかもしれません。しかし、その関係性の基盤が脆かったり、社会的な正当性を欠いていたりするため、将来にわたっての困難や不調和が暗示されています。この卦は、わたしたちが目先の喜びや衝動に流されず、物事の正しい順序や、長期的な安定を見据えることの重要性を問いかけています。

 

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 卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ

1. 原文(漢文):歸妹。征凶。无攸利。

2. 書き下し文: 帰妹(きまい)は征(ゆ)けば凶(きょう)。利(よろ)しき攸(ところ)なし。
3.現代語訳:帰妹(少女が嫁ぐ、不正規な始まりの時)は、そのまま進んでいけば凶である。何の利益もない。

4. ポイント解説:
この卦辞は、非常に厳しい警告を発しています。「帰妹」という、情熱や喜びが先行し、正しい順序や基盤を欠いた状況で、そのまま積極的に物事を進めていけば(征けば)、必ず凶運を招き、何の利益もない(无攸利)と断じています。これは、一時的な感情や表面的な魅力に流されて本質を見誤ることの危険性、そして、物事を成就させるためには、しっかりとした土台と正しい手順がいかに重要であるかを、強く教えています。

爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語

初九(しょきゅう):

帰妹(きまい)娣(てい)を以(もっ)てす。跛(びっこ)にして能(よ)く履(ふ)む。征(ゆ)けば吉(きち)。

1. 原文:歸妹以娣。跛能履。征吉。

2. 書き下し文:帰妹(きまい)娣(てい)を以(もっ)てす。跛(は)にして能(よ)く履(ふ)む。征(ゆ)けば吉(きち)。

3.現代語訳:妹(娣)が(姉の付き添いとして、あるいは側室として)嫁いでいく。足が不自由でも、何とか歩むことができるように、困難な状況ではあるが、進んでいけば吉である。

4. ポイント解説:
「帰妹」の始まり。本来の正妻ではない、妹の立場(娣)で嫁ぐという、やや不利で不正規な状況です。しかし、初九は陽爻であり、困難な中でも前進しようとする力を持っています。「跛にして能く履む」とは、不自由な状況でも、慎重に、そして努力して進んでいくならば、道は開けることを示唆し、結果として吉(征けば吉)を得ます。逆境の中でも、分をわきまえ、誠実に努力することの重要性です。

九二(きゅうじ):

眇(すがめ)にして能(よ)く視(み)る。幽人(ゆうじん)の貞(てい)に利(よろ)し。

1. 原文:眇能視。利幽人之貞。

2. 書き下し文:眇(びょう)にして能(よ)く視(み)る。幽人(ゆうじん)の貞(てい)に利(よろ)し。
3. 現代語訳:片方の目が見えなくても、何とか見ることができる。世俗から離れて静かに道を守る人(幽人)が、その正しさを貫くのに良い。

4. ポイント解説:
この爻もまた、完全ではない状況(眇にして)の中で、それでも本質を見抜く力(能く視る)を持っていることを示します。九二は中正の徳を備え、華やかな表舞台ではなく、静かに自分の本分を守り、正しい道(貞)を貫く「幽人」のようなあり方が、この時期にはふさわしく、そして利益がある(利し)と教えています。不遇な状況でも、内なる誠実さを守り、静かに時を待つことの価値を示唆しています。

六三(りくさん):

帰妹(きまい)須(まつ)を以(もっ)てす。反(かえ)りて帰(とつ)ぐに娣(てい)を以(もっ)てす。
1. 原文:歸妹以須。反歸以娣。

2. 書き下し文:帰妹(きまい)須(しゅ)を以(もっ)てす。反(かえ)りて帰(き)するに娣(てい)を以(もっ)てす。

3. 現代語訳:
嫁ぐのを待たされる(あるいは、召使いのような立場で待つ)。結局は、格下の立場(娣)で嫁ぐことになる。

4. ポイント解説:

この爻は、期待していたような良い条件で嫁ぐことができず、待たされた挙句(須を以てす)、結局は低い立場(娣を以てす)で妥協せざるを得ない状況を示しています。これは、自分自身の価値を正しく認識せず、あるいは高望みしすぎた結果かもしれません。現実を受け入れ、謙虚な姿勢で新たなスタートを切ることの必要性を示唆しています。

九四(きゅうし):

帰妹(きまい)期(き)を愆(あやま)つ。遅(おそ)く帰(とつ)ぐも時(とき)有(あ)り。

1. 原文:歸妹愆期。遲歸有時。
2. 書き下し文:帰妹(きまい)期(き)を愆(けん)す。遅(ち)く帰(き)するも時(じ)有(あ)り。
3. 現代語訳:嫁ぐ時期を誤り、婚期を逃してしまう。しかし、遅れて嫁ぐことになっても、いずれふさわしい時が来る。
4. ポイント解説:
適切な時期(期)を逃してしまい、なかなか良い縁に恵まれない状況です。しかし、九四は陽爻であり、まだ諦めるべきではありません。「遅く帰するも時有り」とは、焦らず、自分を磨きながら辛抱強く待てば、やがて必ずふさわしい時が訪れ、良き縁に恵まれるという希望のメッセージです。タイミングの重要性と、諦めない心の大切さを示しています。

六五(りくご):

帝乙(ていいつ)妹(いもうと)を帰(とつ)がす。其(そ)の君(きみ)の袂(たもと)、其(そ)の娣(てい)の袂(たもと)の良(よろ)しきに如(し)かず。月(つき)望(もちづき)に幾(ちか)し、吉(きち)。**
1. 原文:帝乙歸妹。其君之袂、不如其娣之袂良。月幾望、吉。

2. 書き下し文:帝乙(ていいつ)妹(まい)を帰(き)す。其(そ)の君(くん)の袂(べい)、其(そ)の娣(てい)の袂(べい)の良(りょう)なるに如(し)かず。月(つき)望(ぼう)に幾(ちか)し、吉(きち)。

3. 現代語訳:殷の帝乙が妹を(徳の高い周の文王に)嫁がせた。その姫君の衣装の袖は、付き添いの妹の袖ほど立派ではなかった(質素で謙虚な態度)。月が満月に近いように、非常に良い時であり、吉である。
4. ポイント解説:
この爻は、「帰妹」の卦の中で最も吉とされる爻です。歴史上の故事(帝乙帰妹)を引き合いに出し、たとえ不正規な形の嫁入りであっても、嫁ぐ側(妹)が質素で謙虚な態度(君の袂、娣の袂の良きに如かず)を貫き、相手の徳を重んじるならば、それは非常に良い結果(月望に幾し、吉)をもたらすことを示しています。外見や形式にとらわれず、内面の誠実さと謙虚さが、不完全な状況をも好転させる力を持つことを教えています。

上六(じょうりく):

女(おんな)筐(かご)を承(う)けて実(み)なし、士(し)羊(ひつじ)を刲(ほふ)りて血(ち)なし。利(よろ)しき攸(ところ)なし。
1. 原文:女承筐无實、士刲羊无血。无攸利。

2. 書き下し文:女(じょ)筐(きょう)を承(う)けて実(じつ)なく、士(し)羊(よう)を刲(けい)して血(けつ)なし。利(よろ)しき攸(ところ)なし。

3. 現代語訳:女性が捧げ物の籠(かご)を捧げ持っても中身はなく、男性が羊を屠(ほふ)ろうとしても血が出ない(儀式が形だけで心がこもっていない)。これでは何の利益もない。

4. ポイント解説:
「帰妹」の時の最終段階。ここでは、全ての行動が形式的で、心がこもっておらず、実質が伴わない(筐に実なし、羊を刲りて血なし)ため、何の成果も得られない(利しき攸なし)という、非常に空虚な結末を示しています。どんな関係や行動も、形だけを取り繕っても、そこに真心や誠意、そして実質的な内容が伴わなければ、結局は何も生み出さないという、厳しい教えです。

 

【雷沢帰妹(らいたくきまい)の彖伝】〜全体像〜

原文 彖曰。歸妹、天地之大義也。天地不交、而萬物不興。歸妹、人之終始也。說以動、所歸妹也。征凶、位不當也。无攸利、柔乘剛也。

書き下し文 彖(たん)に曰(いわ)く、帰妹(きまい)は、天地(てんち)の大義(たいぎ)なり。天地(てんち)交(まじ)わらざれば、万物(ばんぶつ)興(おこ)らず。帰妹(きまい)は、人(ひと)の終始(しゅうし)なり。説(よろこ)びて以(もっ)て動(うご)くは、帰妹(きまい)する所(ところ)なり。征(ゆ)けば凶(きょう)とは、位(くらい)當(あた)らざればなり。利(よろ)しき攸(ところ)なしとは、柔(じゅう)剛(ごう)に乘(じょう)ずればなり。

現代語訳 彖伝は言う。帰妹(男女が結ばれること)は、天地自然の大いなる道理である。天と地が交わらなければ、万物は生まれない。男女の結びつきは、人の一生における終わりであり、また新しい始まりでもある。喜悦の心をもって動き出すのが、妹が嫁いでいくというこの卦の形である。「進んでいけば凶である」というのは、各爻がその正しい位にいないからである。「何の利益もない」というのは、柔順なもの(陰爻)が剛健なもの(陽爻)の上に乗っているという、不自然な形だからである。

 

ポイント解説「柔が剛に乗る」とは、本来支えるべきもの(柔)が、支えられるべきもの(剛)の上に乗り、全体のバランスが崩れている、不自然で不安定な状態です。これは、人間関係や組織における、不健全な力関係の比喩とも言えます。わたしたちも、自分自身の周りの関係性や、あるいは自分自身の心のあり方について、「不自然なバランス」が生じていないか、時折見つめ直すことが大切です。わたしたちの道は、それぞれの要素が、その本来の役割を正しく果たし、互いに尊重し合う、調和の取れた関係性の中にこそ、確かな形で開かれていくのです。

大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方

1. 原文(漢文):象曰。澤上有雷、歸妹。君子以永終知敝。
2. 書き下し文:象(しょう)に曰(いわ)く、澤(さわ)の上(うえ)に雷(らい)有(あ)るは帰妹(きまい)なり。君子(くんし)以(もっ)て終(おわり)を永(なが)くして敝(やぶ)れを知(し)る。
3. 現代語訳: 象伝は言う。沢の上に雷が鳴り響き、不安定なのが帰妹の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、物事の終わりを長く見通し、何がやがては破れ、衰えるかを知る。
4. ポイント解説:
沢(兌=喜び、少女)の上に雷(震=動き、長男)がある。喜びが動きに先走り、不安定な状態が「帰妹」の象徴です。これを見た君子は、「終りを永くして敝れを知る」、つまり、一時的な感情や勢いで始まった物事や関係性は、長続きせず、やがては破綻したり、弊害が生じたりする(敝れを知る)という、長期的な視点と洞察力を持つことの重要性を学びます。目先の喜びや利益に惑わされず、物事の本質と、その将来的な結果を見通すこと。それが、賢明なリーダーの心得であると教えています。

【むすび】

雷沢帰妹の卦は、わたしたちが情熱や喜びといった感情に動かされて行動する際に、いかにしてそのエネルギーを正しく導き、長期的な幸福と成長に繋げていくかという、深い人間的洞察に満ちた智慧を授けてくれます。

  •  1. 「終(おわり)を永(なが)くして敝(やぶ)れを知(し)る」 – あなたの選択は、よい未来に繋がっていますか?: わたしたちが何か新しいことを始めたり、誰かと新しい関係を築いたりする時、その瞬間の感情や勢いだけでなく、それが長期的にどのような結果をもたらすか(終りを永くして)、そして潜在的な問題点や危うさ(敝れ)はないかを、冷静に見通す視点を持つことが大切です。目先の喜びだけでなく、持続可能な幸福と成長を目指す生き方なのです。
  •  2. 「利(よろ)しき攸(ところ)なし」の警告を心に – 「なぜ?」を問い、本質を見失わない: 卦辞が示すように、不正規な始まりや、本質を見誤った行動は、結局何の利益ももたらしません。わたしたちも、何かを行動に移す前に、「なぜ、わたしはこれをしたいのだろう?」「これは本当に正しい道だろうか?」「その先に何があるのだろう?」と、自分自身の心に深く問いかけ、その行動の「本質的なWHY」を見つめ直すことが、わたしたちの道を確かなものにします。
  •  3. 「帝乙(ていいつ)妹(いもうと)を帰(とつ)がす」の精神 – 謙虚さと誠実さで、不完全さを吉へと転じる: 六五の爻が教えるように、たとえ状況が理想的でなかったり、始まりが不正規であったりしても、わたしたち自身が謙虚な心を持ち、誠実な態度を貫き、相手の徳を重んじるならば、その不完全さをも乗り越え、素晴らしい結果(吉)へと転じさせることができます。わたしたちの道は、完璧な状況を待つのではなく、今ある状況の中で、いかに誠実に、そして賢明に最善を尽くすか、ということなのかもしれません。
  •  4. 「女(おんな)筐(かご)を承(う)けて実(み)なし」とならないために – 心を込め、実質を伴う行動を: 上六の爻が戒めるように、どんなに立派な形を取り繕っても、そこに真心や実質が伴わなければ、それは空虚なものとなり、何の価値も生みません。わたしたちも、日々の行動や人間関係において、表面的な体裁や言葉だけでなく、心からの誠意と、具体的な中身(実)を大切にすることを心がけましょう。その「実」ある積み重ねこそが、真の価値ある人生を築き上げるのです。

雷沢帰妹の時は、わたしたちの感情の動きと、それを律する理性や社会的な規範との間で、バランスと調和を見出すことの難しさと重要性を教えてくれます。しかし、この卦はまた、どんな状況にあっても、謙虚さ、誠実さ、そして長期的な視点を持つことで、わたしたちは必ず道を開き、人間として成長し、「日々新たに、益々よくなる」ことができるのだという、希望のメッセージをも伝えてくれているのです。