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【易】第15卦「地山謙(ちざんけん)」– 内なる豊かさを謙虚に秘め、万物を生かす徳

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【易の叡智 第15卦】「地山謙(ちざんけん)」– 内なる豊かさを謙虚に秘め、万物を生かす「益々善成」の徳

 

1. 卦象(かしょう):

2. 名称(めいしょう): 地山謙(ちざんけん)

3. 【この卦のメッセージ】

上卦(じょうか):坤(こん) – 地、受容、柔順、母性、大衆
下卦(かか):艮(ごん) – 山、止まる、篤実、少男、静止
全体のイメージ: 本来ならば高くそびえ立つはずの山(艮)が、万物を載せ育む広大な大地(坤)の下に、恭しく身を低くしている。この「地山謙」の姿は、まさに「謙遜」「謙譲」という徳そのものを、これ以上ないほど見事に象徴しています。高い能力や豊かな才能(山)を持ちながらも、それを誇示することなく、むしろ低い位置に身を置き(地の下)、他者を受け入れ、支えようとする、内なる豊かさと強さを秘めた理想的なあり方です。 「謙」という文字は、「言」と「兼」から成り立ち、「多くのものを兼ね備えていながらも、言葉を控えめにする」という意味合いを持つとも言われます。この卦は、真の謙虚さとは何か、そしてその謙虚さがもたらす計り知れない恵みについて、静かに、しかし力強くわたしたちに語りかけています。

1. 卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ**

原文(漢文):謙。亨。君子有終。

書き下し文:謙(けん)は亨(とお)る。君子(くんし)終(おわり)有(あ)り。

現代語訳:** 謙(謙遜の徳)は、願いは通る。君子(徳の高い人)は、その謙虚さによって物事を最後まで成し遂げ、良い結果を得る。

ポイント解説:
この卦辞は、極めてシンプルに「謙」の徳の素晴らしさを讃えています。「亨る」とは、物事がスムーズに進展し、願いが成就すること。そして「君子終り有り」とは、徳の高い人が謙虚な姿勢を貫くことで、始めたことを最後までやり遂げ、必ず良い結果を得ることを保証しています。謙虚さは、決して弱さではなく、むしろ物事を成就させるための、強く賢明な力であることを教えています。

2. 爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語**

この地山謙の卦は、六つの爻全てが吉とされており、それぞれの立場における謙虚さの実践とその結果を示しています。

初爻:

謙謙(けんけん)たる君子(くんし)。大川(たいせん)を渉(わた)るに用(もち)う。吉(きち)。**

原文:謙謙君子。用渉大川、吉。

書き下し文:謙謙(けんけん)たる君子(くんし)。大川(たいせん)を渉(わた)るに用(もち)う。吉(きち)。

現代語訳:謙虚に謙虚を重ねる君子である。このような人物であれば、大きな川を渡るような困難な事業も成し遂げることができる。吉である。

ポイント解説:
謙虚さの最初の段階。まだ地位も低く、目立たない存在かもしれませんが、その心には徹底した謙虚さ(謙謙)が備わっています。このような純粋で真摯な謙虚さを持つ人物は、どんな困難な状況(大川を渉る)に直面しても、周囲の助けを得て、必ず良い結果(吉)を導き出すことができます。全ての基本は、心からの謙虚さにあることを示しています。

二爻:

鳴(な)く謙(けん)。貞(てい)にして吉(きち)。

原文:鳴謙。貞吉。

書き下し文:鳴(な)く謙(けん)。貞(てい)にして吉(きち)。

現代語訳:その謙虚さが自然と外に現れ、人々に知れ渡る。正しい道を守っていれば吉である。

ポイント解説:
内面の謙虚さが、隠そうとしても自然と振る舞いや言葉に現れ、周囲の人々に好感をもって受け入れられる(鳴く謙)状態です。その謙虚さが真心からのものであり、正しい道(貞)に則っていれば、ますます良い結果(吉)に恵まれます。内なる徳は、必ず外に薫り出るのです。

三爻:

労謙(ろうけん)の君子(くんし)。終(おわり)有(あ)り。吉(きち)。

原文:勞謙君子。有終、吉。

書き下し文:労謙(ろうけん)の君子(くんし)。終(おわり)有(あ)り。吉(きち)。

現代語訳:功績を上げても謙虚さを失わない君子である。物事を最後まで成し遂げ、良い結果を得る。吉である。

ポイント解説:

この卦で唯一の陽爻であり、実力と功績(労)を兼ね備えながらも、決して驕ることなく謙虚な姿勢(謙)を貫く、理想的なリーダーの姿です。このような人物は、多くの人々の信頼と協力を得て、どんな困難な事業も最後までやり遂げ(終り有り)、必ず素晴らしい成果(吉)を収めることができます。真の実力者は、常に謙虚なのです。

四爻:

利(よろ)しからざるなし。謙(けん)を撝(ふる)う。**

原文:无不利。撝謙。

書き下し文:利(よろ)しからざるなし。謙(けん)を撝(ふる)う。

現代語訳:何事においても不利益なことはない。謙虚な徳を自然に発揮しているからだ。

ポイント解説:

この爻は、無理なく、ごく自然に謙虚な態度(謙を撝う)が身についている状態を示します。そのため、どんな状況にあっても、何を行っても、不利益を被ることはなく(利しからざるなし)、物事はスムーズに進展します。意識せずとも謙虚さがにじみ出るような、高い境地です。

五爻:

富(とみ)めども其(そ)の鄰(となり)と以(とも)にせず。侵伐(しんばつ)するに利(よろ)し。利(よろ)しからざるなし。**

原文:不富以其鄰。利用侵伐。无不利。

書き下し文:富(と)めども其(そ)の鄰(となり)と与(とも)にせず。侵伐(しんばつ)するに利(よろ)し。利(よろ)しからざるなし。

現代語訳:富んでいても、それを自分のものとせず、隣人と分かち合う(あるいは、富を誇示しない)。不正なものを正し、改めるのに良い。何事においても不利益なことはない。

ポイント解説:
君主の位にありながら、その富や権力を自分のものとして誇示せず(富めども其の鄰と与にせず)、むしろ周囲と分かち合おうとする謙虚な姿勢です。このような徳のあるリーダーは、不正や悪(侵伐すべきもの)を正し、改革を進めるのに非常に有利な立場にあり、何を行っても良い結果(利しからざるなし)が得られます。謙虚さと正義感が、大きな力を生み出します。

上爻:

鳴(な)く謙(けん)。師(いくさ)を行(や)るに利(よろ)し。邑國(ゆうこく)を征(せい)す。**

原文:鳴謙。利用行師。征邑國。

書き下し文:鳴(な)く謙(けん)。師(し)を行(や)るに利(よろ)し。邑國(ゆうこく)を征(せい)す。

現代語訳:その謙虚さが広く知れ渡っている。軍隊を動かすような大きな事業も成し遂げるのに良い。自分の国や町(の不正)を正すことができる。

ポイント解説:
謙虚の徳が完成し、その名声が広く知れ渡っている(鳴く謙)状態です。もはや隠そうとしても隠せないほどの徳の輝きです。このような人物であれば、軍隊を率いて国を治めるような大きな事業(師を行る、邑國を征す)も、人々の信頼と協力を得て、見事に成し遂げることができます。ただし、ここでの「征す」は、外敵を討つというよりは、自分自身の国や共同体の中にある不正や乱れを正す、という内向きの改革を意味します。最後まで謙虚さを貫くことで、大きな事を成し遂げられるのです。

3. 大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方

原文(漢文):象曰。地中有山、謙。君子以裒多益寡、稱物平施。

書き下し文:象(しょう)に曰(いわ)く、地中(ちちゅう)に山(やま)有(あ)るは謙(けん)なり。君子(くんし)以(もっ)て多(おお)きを裒(へら)し寡(すくな)きを益(ま)し、物(もの)を稱(はか)りて施(ほどこ)しを平(たい)ら にす。

現代語訳:象伝は言う。大地の中に(本来は高い)山が(低く)あるのが謙の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、多いところから減らして少ないところに益し加え、物事を公平に衡量して施しを平等にする。

ポイント解説:
高くそびえるはずの山が、広大な大地の中に謙虚にその身を収めている。これこそが「謙」の象徴です。これを見た君子は、社会において「多きを裒し寡きを益し(多いところから取り、少ないところへ加える)」、そして「物を稱りて施しを平らにす(物事を公平に判断し、施しを平等に行う)」という、まさに社会的正義と調和を実現するための行動をとります。謙虚さとは、単にへりくだるだけでなく、このように全体のバランスを考え、公平公正を期す、積極的で賢明な徳なのです。

4. むすび

地山謙の卦は、わたしたちが「謙虚さ」という、時代を超えた普遍的な美徳を身につけ、それによっていかに人生を豊かで調和に満ちたものにしていけるかという、深遠な智慧を授けてくれます。

地山謙の時は、わたしたちの内なる豊かさと強さが、最も美しい形で現れる時です。それは、決して声高に自己を主張するのではなく、むしろ深く頭を垂れる稲穂のように、実るほどに謙虚になり、そしてその実りを静かに周囲と分かち合う、そんな「益々善成」の理想的な姿です。この上なく素晴らしい「謙」の徳を、わたしたちも日々の生活の中で、少しずつ育んでいきましょう。

 


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