〜「満タン」になる前に止める勇気が、あなたを守る〜
1. 原文(漢文)
持而盈之,不如其已。 揣而銳之,不可長保。
金玉滿堂,莫之能守。 富貴而驕,自遺其咎。
功遂身退,天之道。
2. 書き下し文
持(じ)して之(これ)を盈(み)たすは、其(そ)の已(や)むに如(し)かず。 揣(きた)えて之(これ)を鋭(するど)くするは、長(なが)く保(たも)つ可(べ)からず。
金玉(きんギョク)堂(どう)に満(み)つるも、之(これ)を能(よ)く守(まも)る莫(な)し。 富貴(ふき)にして驕(おご)るは、自(みずか)ら其(そ)の咎(とが)を遺(のこ)す。
功(こう)遂(と)げて身(み)退(しりぞ)くは、天(てん)の道(みち)なり。
3. 現代語訳
器を持ち続けて満タンになるまで注ぎ込むよりは、溢れる前の適当なところで止めておくほうが良いでしょう。 刃物を鍛え上げて鋭く研ぎ澄ましすぎると、かえって欠けやすくなり、その鋭さを長く保つことはできません。
金や宝石が家中に満ち溢れていても、それを盗まれないように守り通すことは誰にもできません。 地位や財産を得て、そのうえ傲慢に振る舞うならば、自分で自分の身に災いを招くようなものです。
なすべきことを成し遂げ、功績を上げたら、その地位に執着せずにさっさと身を引く。 これが天の法則(自然の理)というものです。
4. ポイント解説
第九章は、私たちが成功を破壊せず、人生を安全に運転し続けるための「ブレーキとハンドリングの技術」を教えてくれています。
誰にとっても共通する、人生を長く楽しむための3つの知恵は以下の通りです。
① 「腹八分目」が最強の持続力
「持して之を盈たすは…」。 コップなみなみに注がれた水は、少し揺れただけでこぼれます。人生も同じで、スケジュールも、貯金への執着も、人間関係の距離感も、「パンパン」の状態は非常に脆(もろ)いのです。 「益々よくなる」とは、限界まで詰め込むことではありません。 「まだ入るけれど、この辺でやめておこう」。 常に余白(余裕)を残しておくことで、不測の事態にも対応でき、こぼれる(失敗する)ことなく歩み続けることができます。
② 鋭すぎる才能は、あえて隠す
「揣えて之を鋭くするは…」。 カミソリのように切れすぎる刃は、すぐに刃こぼれします。人間も、頭が良すぎたり、批判が鋭すぎたり、完璧主義すぎたりすると、周囲と衝突し、自分自身の神経もすり減らしてしまいます。
本当に賢い人は、自分の鋭さを適度に丸くしています(和光同塵)。 「正論を言いたくなっても、少し控える」「100点を目指さず、80点で良しとする」。 その「鈍感力」や「適当さ」こそが、あなたの才能やメンタルを長く守る鞘(さや)となります。
③ 「勝ち逃げ」の美学(功遂身退)
この章の結論であり、老子哲学の真髄です。「功遂げて身退く」。 多くの人は、成功すると「この地位を失いたくない」「もっと称賛されたい」と居座り、やがて老害となったり、足を引っ張られて失脚します。
「益々よくなる」ための秘訣は、一つの成功にしがみつかないことです。 プロジェクトが成功したら、手柄を誇らず、さっと次のステージへ移る。 利益が出たら、欲張らずに確定させる(利食い)。 執着せずに手放すことで、あなたは常に身軽になり、新しい「功」を成し遂げるための空白が生まれます。 **「去り際が美しい人」**こそが、天に愛され、次の幸運を呼び込むのです。

