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【易経】 第59卦「風水渙(ふうすいかん)」– わだかまりを解き放ち、心を一つにして大いなる流れに乗る

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【易経】 第59卦「風水渙(ふうすいかん)」– わだかまりを解き放ち、心を一つにして大いなる流れに乗る

1. 卦象(かしょう):

2. 名称(めいしょう): 風水渙(ふうすいかん)

3. 【この卦のメッセージ】 
上卦(じょうか):巽(そん) – 風、木、入る、従順、命令 *
下卦(かか):坎(かん) – 水、険難、陥る、悩み、心 *
全体のイメージ: 下にある険しい水(坎)の上を、風(巽)が吹き渡っている。この「風水渙」の姿は、まるで春風が厚い氷を溶かし、あるいは強い風が霧を吹き払うように、これまで滞っていたもの、固まっていたもの、あるいは心の中にあった困難やわだかまり(坎)が、風の力(巽)によって解き放たれ、散らされていく様を象徴しています。「渙」という文字は、水が勢いよく四方八方に散っていく様子を表し、「渙散」「離散」「解消」といった意味合いを持ちます。 これは、一見するとバラバラになる、まとまりがなくなるというネガティブな側面も持ちますが、同時に、長らく心を閉ざしていた氷が解けるように、あるいは人々の間の誤解や対立が解消されるように、障害が取り除かれ、新しい流れや可能性が生まれる、解放と刷新の時でもあるのです。

 

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卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ

原文(漢文):渙。亨。王假有廟。利渉大川。利貞。

書き下し文:渙(かん)は亨(とお)る。王(おう)廟(びょう)に假(いた)る。大川(たいせん)を渉(わた)るに利(よろ)し。貞(ただ)しきに利(よろ)し。

現代語訳:渙(物事が解け散る時)は、(最終的には)願いは通る。王が宗廟(先祖の霊を祀る大切な場所)に詣でて人々の心を一つにするように、精神的な中心を確立することが重要である。大きな川を渡るような困難な事業も成し遂げると良い。正しい道を守ることが大切である。

ポイント解説:
この卦辞は、「渙」という困難や離散の状況にあっても、最終的には物事が好転し、願いが成就する(亨る)可能性を示しています。しかし、そのためには非常に重要な条件があります。それは「王廟に假る」、つまり、人々がバラバラになりがちな時にこそ、王が宗廟に詣でて祖先の霊を祀り、国家や共同体の精神的な中心を再確認し、人々の心を一つにまとめることが不可欠である、ということです。このような確固たる精神的な拠り所があれば、たとえ困難な状況(大川を渉る)であっても、それを乗り越え、事を成し遂げることができます。そして、その全ての過程において、「貞(正しい道、誠実さ)」を守り通すことが、成功の鍵となるのです。

爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語

初六(しょりく):

馬(うま)の壮(さか)んなるを拯(すく)うに用(もち)う。吉(きち)。

原文:用拯馬壯吉。

書き下し文:初六(しょりく)。馬(うま)の壮(そう)なるを拯(すく)うに用(もち)う。吉(きち)。

現代語訳:困難を救うのに、力強い馬のような助けを用いる。吉である。

ポイント解説:
「渙」の始まり。まだ困難が始まったばかりで、事態が深刻化する前に、力強く有能な助け(馬の壮んなる)を得て、それを積極的に活用することで、危機を未然に防いだり、問題を早期に解決したりすることができます。適切なタイミングで、適切な支援を得ることの重要性を示し、吉です。

九二(きゅうじ):

渙(かん)として其(そ)の机(つくえ)に奔(はし)る。悔(くい)亡(ほろ)ぶ。

原文:渙奔其机。悔亡。

書き下し文:渙(かん)として其(そ)の机(き)に奔(ほん)す。悔(くい)亡(ほろ)ぶ。

現代語訳:困難が解け散る時に、自分の頼りとするもの(机=寄りかかるもの、安全な場所)に急ぎ向かう。そうすれば後悔はなくなる。

ポイント解説:
困難や混乱(渙)が生じた際に、慌てふためくのではなく、自分にとって最も安全で、頼りになる場所や人物(其の机)のもとへ、速やかに避難し、身の安全を確保することの重要性を示しています。そうすることで、これまでの過ちや後悔(悔)も消え去り、新たなスタートを切ることができます。危機管理能力と、安全な基盤を持つことの大切さです。

六三(りくさん):

其(そ)の躬(み)を渙(ち)らす。悔(くい)なし。

原文:渙其躬。无悔。

書き下し文:其(そ)の躬(きゅう)を渙(かん)す。悔(くい)なし。

現代語訳:自分自身の私利私欲やこだわりを解き放つ。そうすれば後悔はない。

ポイント解説:

この爻は、困難な状況や全体の調和が求められる時に、自分自身の小さな我(躬)や、個人的な利益への執着を「渙らす」、つまり手放すことの重要性を示しています。私心を捨て、より大きな目的や全体の利益のために行動するならば、何の後悔(悔なし)もありません。自己中心的な考えを解き放つことで、道が開けるのです。

六四(りくし):

其(そ)の群(むれ)を渙(ち)らす。元吉(げんきつ)。渙(かん)として丘(おか)有(あ)り。夷(たい)らかにして思(おも)わざる所(ところ)に匪(あら)ず。

原文:渙其群。元吉。渙有丘、匪夷所思。

書き下し文:其(そ)の群(ぐん)を渙(かん)す。元吉(げんきつ)。渙(かん)として丘(きゅう)有(あ)り。夷(い)にして思(おもんぱか)わざる所(ところ)に匪(あら)ず。

現代語訳:私的な派閥や小さな集団(群)を解散し、より大きな視点に立つ。非常に素晴らしい吉である。解け散ったものが、やがては丘のように大きく積み重なる(新たな大きなまとまりとなる)。それは、常人には思いもよらないような、素晴らしい結果である。

ポイント解説:
この爻は、小さな派閥や閉鎖的なグループ(其の群)に固執することをやめ、それを解き放ち(渙らす)、より大きな視点から物事を捉え直すことの素晴らしさ(元吉)を示しています。一見バラバラになったように見えても、その結果として、より大きく、より本質的な繋がりや、想像もできなかったような素晴らしい成果(渙として丘有り、夷にして思わざる所に匪ず)が生まれるのです。既成概念や小さな枠組みを超えることの重要性です。

九五(きゅうご):

汗(あせ)を渙(ち)らす其(そ)の大号(たいごう)。王居(おうきょ)を渙(ち)らす。咎(とが)なし。

原文:渙汗其大號。渙王居。无咎。

書き下し文:汗(かん)を渙(かん)す其(そ)の大号(たいごう)。王居(おうきょ)を渙(かん)す。咎(とが)なし。

現代語訳:汗を流すように、その素晴らしい号令を広く発布する。王の居場所(富や権力)を人々に分け与え、私物化しない。咎めはない。

ポイント解説:
君主の位にあり、困難な状況を打開するための素晴らしい号令(大号)を、まるで汗が体から流れ出るように、自然かつ広範囲に発し、人々の心を動かします(汗を渙す)。そして、王自身もまた、自分の富や権力(王居)に固執せず、それを人々と分かち合う(渙らす)ことで、私心を捨て、公のために尽くす姿勢を示します。このようなリーダーのあり方は、何の咎めもなく、人々の信頼と協力を得て、困難を乗り越える力となります。

上九(じょうきゅう):

其(そ)の血(ち)を渙(ち)らし、逖(とお)く出(い)で去(さ)る。咎(とが)なし。

原文:渙其血、去逖出。无咎。

書き下し文:其(そ)の血(けつ)を渙(かん)し、逖(てき)に出(い)で去(さ)る。咎(とが)なし。

現代語訳:流血の事態(危険)を避け、そこから遠く離れ去る。そうすれば咎めはない。

ポイント解説:
「渙」の時の最終段階。もはや危険が目前に迫り、流血の事態(其の血)さえ予想されるような状況です。このような時は、無理にその場に留まったり、戦ったりするのではなく、賢明にもその危険から遠く離れ(逖く出で去る)、身の安全を確保することが最善です。そうすれば、咎めはありません。危険を回避する勇気と判断力もまた、重要な智慧なのです。

【風水渙(ふうすいかん)の彖伝】〜全体像〜

原文 彖曰。渙亨。剛來而不窮、柔得位乎外而上同也。王假有廟、王乃在中也。利渉大川、乘木有功也。

書き下し文 彖(たん)に曰(いわ)く、渙(かん)は亨(とお)る。剛(ごう)来(きた)りて窮(きわ)まらず、柔(じゅう)位(くらい)を外(そと)に得(え)て上(かみ)と同(おな)じければなり。王(おう)廟(びょう)に假(いた)るとは、王(おう)乃(すなわち)中(ちゅう)に在(あ)ればなり。大川(たいせん)を渉(わた)るに利(よろ)しとは、木(もく)に乘(じょう)じて功(こう)有(あ)ればなり。

現代語訳 彖伝は言う。「渙は願いが通る」とある。(その理由はこうである。)剛健なもの(九二の陽爻)が(下の危険な坎の卦に)やって来ても、その力を失い窮まることがなく、柔順なもの(六四の陰爻)が外卦で正しい位を得て、上の君主(九五の陽爻)と志を同じくしているからである。(卦辞に)「王が宗廟に詣でる」とあるのは、王(九五の爻)がまさしく中心にいて、人々の心の拠り所となっているからである。「大きな川を渡るのに良い」というのは、(下の坎の水を、上の巽の)木の舟に乗って渡るように、適切な手段を用いれば功績があるからである。

ポイント解説「彖伝」は、物事が散り散りになる「渙」の時にあっても、その願いは「亨る(とおる)」と、まず力強く宣言します。なぜなら、その混乱の中にも、決して尽きることのない中心的な力(剛來而不窮)と、正しく調和した柔らかな力(柔得位乎外而上同也)が、確かに存在するからです。
「渙」の前には、しばしば「解(雷水解)」の段階があります。
そして「渙」の時になることで、困難な大事業(大川を渉る)にも挑戦できる時だと「彖伝」は言います。ただし、それには条件があります。それは、「木に乘る」、つまり、適切な「道具」や「手段」を用いることです。それは、下の卦である坎(水、困難)を、上の卦である巽(風、木、船の象徴)で乗り越えていく形です。
わたしたちの道においても、計画が頓挫したり、チームが分裂したり、あるいは心が散漫になったりする時、その「散じる」という現象の奥に、次なる発展のための、新しい可能性の芽が隠されていることを信じましょう。古い形が壊れるからこそ、新しい、より良い形が生まれるのです

大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方

原文(漢文):象曰。風行水上、渙。先王以享于帝立廟。

書き下し文:象(しょう)に曰(いわ)く、風(かぜ)水(みず)の上(うえ)を行(ゆ)くは渙(かん)なり。先王(せんのう)以(もっ)て帝(てい)に享(きょう)し廟(びょう)を立(た)つ。

現代語訳:象伝は言う。風が水の上を吹き渡り、水を解き散らすのが渙の形である。古代の賢王たちはこれに倣(なら)い、天帝を祀(まつ)り、宗廟を建立して、人々の心を一つにまとめた。

ポイント解説:
風が水面を吹き渡り、波を起こし、あるいは霧を散らす。これが「渙」の象徴です。水(人々や物事)が散りやすい状況にある時、古代の賢王たちは、天帝への祭祀を行い、祖先を祀る宗廟を建立する(帝に享し廟を立つ)ことで、人々の精神的な拠り所を確立し、バラバラになりがちな心を一つにまとめ、国家の統一と安寧を保ちました。これは、困難や離散の時にこそ、共通の価値観や精神的な支柱がいかに重要であるかを教えています。

【むすび】

風水渙の卦は、わたしたちが人生における「困難の解消」「心の解放」、そして「新たな結束」という、再生と希望のプロセスをどのように歩むべきかという、ダイナミックで深い智慧を授けてくれます。

  • 1. あなたの心を縛る「氷」は何ですか? – 勇気をもって、それを解き放とう: わたしたちの心の中にも、古い固定観念、過去のトラウマ、あるいは人間関係のわだかまりといった、自由な成長を妨げる「氷」が存在するかもしれません。風水渙は、そのような心の氷を、春風のように優しく、しかし確実に「渙(と)かし」、心を解放することの重要性を教えています。その一歩が新しい流れを生み出すのです。
  • 2. 「王(おう)廟(びょう)に假(いた)る」 – あなたの「精神的な中心軸」を再確認し、心を一つに: 困難な時や、心が散漫になりがちな時こそ、わたしたちが本当に大切にしたい価値観、人生の目的、あるいは信仰といった「精神的な中心軸(廟)」に立ち返り、心を一つに定めることが重要です。その確固たる中心があれば、どんな困難な状況(大川)も乗り越え、迷うことなく進むべき道を見出すことができるでしょう。わたしたちの旅もまた、この内なる中心軸に導かれるのです。
  • 3. 「其(そ)の躬(み)を渙(ち)らす」「其(そ)の群(むれ)を渙(ち)らす」 – 小さなこだわりを手放し、より大きな善のために: 六三や六四の爻が教えるように、時には自分自身の小さなエゴ(躬)や、排他的な仲間意識(群)といったものを手放し、より大きな視点から物事を捉え、全体の調和や利益のために行動することが求められます。
    個人的な成長だけでなく、周囲との調和の中で、より大きな善を実現していくプロセスでもあるのです。
  • 4. 「汗(あせ)を渙(ち)らす其(そ)の大号(たいごう)」 – あなたの善き想いを、惜しみなく発信しよう: 九五の爻が示すように、わたしたちが心からの善意や、人々を勇気づけるような素晴らしいメッセージ(大号)を持っているならば、それを汗を流すように、惜しみなく周囲に発信していくことが大切です。あなたのその温かい言葉や行動が、多くの人々の心を動かし、困難を解き放ち、新しい希望を生み出す力となるかもしれません。

風水渙の時は、わたしたちが過去の困難や心のわだかまりから解放され、新たな視点とエネルギーを得て、より大きな目的のために心を一つにしていく、再生と希望の時です。この卦の智慧を胸に、わたしたちもまた、自分自身と周囲の「滞り」を解き放ち、清々しい心で、そして確かな精神的支柱と共に、「日々新たに、益々よくなる」未来へと、力強く漕ぎ出していきましょう。