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【易経】第58卦「兌為沢(だいたく)」– 心開きて喜びを語らい、共に学び共に栄える輪

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【易経】第58卦「兌為沢(だいたく)」– 心開きて喜びを語らい、共に学び共に栄える輪

1. 卦象(かしょう):

2. 名称(めいしょう): 兌為沢(だいたく)

3. 【この卦のメッセージ】
上卦(じょうか):兌(だ) – 沢、喜び、悦楽、少女、口(言葉) *
下卦(かか):兌(だ) – 沢、喜び、悦楽、少女、口(言葉) *
全体のイメージ:喜びと潤いに満ちた沢(兌)が、さらにその上に沢(兌)を重ねる。この「兌為沢」の姿は、まるで二つの湖が隣り合い、互いに水を交わし、その岸辺では人々が集い、語り合い、笑い声が絶えないような、喜びに満ち溢れた光景を象徴しています。「兌」という文字は、人の口が開いて言葉を発する形、あるいは、羊の角が分かれている形とも言われ、「悦ぶ」「説く(語る)」「交換する」といった意味合いを持ちます。 この卦は、わたしたちが心を開き、他者とのコミュニケーションを楽しみ、互いに学び合い、そして喜びを分かち合うことの素晴らしさを示しています。そこには、偽りや隔たりはなく、純粋な好意と共感に基づいた、和やかで建設的な人間関係が育まれる、輝かしい時が描かれています。

 

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卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ

原文(漢文):兌。亨。利貞。

書き下し文:兌(だ)は亨(とお)る。貞(ただ)しきに利(よろ)し。

現代語訳:兌(喜びの時)は、願いは通る。ただし、正しい道を守ることが大切である。

ポイント解説:
この卦辞は、「兌」の時が、喜びと共に物事がスムーズに進展し、願いが成就する(亨る)良い時であることを示しています。人々が心を開き、和やかに交流する中で、多くの良きことが生まれるでしょう。しかし、その喜びが真に価値あるものであり、持続するためには、「貞しきに利し」、つまり、その喜びや交流が、正しい道徳や誠実さ(貞)に基づいていることが不可欠であると教えています。ただ浮かれて騒ぐのではなく、その根底に正しさがあってこそ、真の喜びと成功が得られるのです。

爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語

初九(しょきゅう):

和(わ)して兌(よろこ)ぶ。吉(きち)。**

原文:和兌。吉。

書き下し文:和(わ)して兌(えつ)す。吉(きち)。

現代語訳:和やかな心で喜びを分かち合う。吉である。

ポイント解説:
「兌」の始まり。まだ大きな喜びではありませんが、心穏やかに、周囲と調和しながら(和して)、ささやかな喜びを感じ、分かち合っている(兌ぶ)状態です。このような純粋で飾り気のない喜びは、人間関係の基本であり、非常に良い結果(吉)をもたらします。まずは、身近なところから、和やかな喜びの輪を広げていくことの大切さを示しています。

九二(きゅうじ):

孚(まこと)ありて兌(よろこ)ぶ。吉(きち)。悔(くい)亡(ほろ)ぶ。

原文:孚兌。吉。悔亡。

書き下し文:孚(ふ)して兌(えつ)す。吉(きち)。悔(くい)亡(ほろ)ぶ。

現代語訳:真心をもって喜びを分かち合う。吉である。後悔は消え去る。

ポイント解説:
九二は中正の徳を備え、その喜びは内なる誠実さ(孚)に基づいています。真心からの喜び、そして真心をもって他者と喜びを分かち合う姿勢は、必ずや良い結果(吉)をもたらし、これまでの悩みや後悔(悔)も自然と消え去っていくでしょう。表面的な楽しさではなく、心からの誠実な喜びが、真の幸福へと繋がることを教えています。

六三(りくさん):

来(きた)りて兌(よろこ)ぶ。凶(きょう)。**

原文:來兌。凶。

書き下し文:来(きた)りて兌(えつ)す。凶(きょう)。

現代語訳:相手に媚びへつらって喜びを得ようとする。凶である。

ポイント解説:
この爻は、自分自身に喜びの源泉を持たず、他者からの歓心を買ったり、媚びへつらったりして(来りて兌ぶ)、喜びを得ようとする、不健全な状態を警告しています。そのような卑屈で主体性のない喜びの求め方は、結局は自分自身を貶め、周囲からの信頼も失い、悪い結果(凶)を招きます。真の喜びは、自らの内から湧き出るものであり、他者に依存するものではありません。

九四(きゅうし):

兌(よろこ)びを商(はか)りて未(いま)だ寧(やす)からず。介疾(かいしつ)あれば喜(よろこ)び有(あ)り。

原文:商兌未寧。介疾有喜。

書き下し文:兌(えつ)を商(しょう)りて未(いま)だ寧(やす)からず。介疾(かいしつ)すれば喜(き)有(あ)り。

現代語訳:どのような喜びが良いかあれこれと思い計り、心がまだ定まらない。しかし、悪いもの(不健全な喜びや誘惑)を毅然として退ければ、やがて真の喜びがある。

ポイント解説:
この爻は、様々な喜びや誘惑の中で、どれが真の喜びなのか、どれを選ぶべきかと思案し、心がまだ定まらない(兌びを商りて未だ寧からず)状態です。しかし、そのような中で、自分にとって不健全なものや、一時的な快楽(介疾)を、毅然とした態度で退ける(介疾すれば)ならば、やがて心からの真の喜び(喜び有り)を得ることができます。誘惑に打ち克ち、正しい喜びを選択する勇気の重要性を示しています。

九五(きゅうご):

剥(はく)に孚(まこと)あり。厲(あやう)きこと有(あ)り。**

原文:孚于剝。有厲。

書き下し文:剥(はく)に孚(ふ)す。厲(あやう)きこと有(あ)り。

現代語訳:剥ぎ落とそうとする者(口先だけの甘言で取り入ろうとする不誠実な者)を信頼してしまう。危険が伴う。

ポイント解説:
君主の位にありますが、ここでは注意が必要です。「剥」とは、下のもの(陰)が上のもの(陽)を侵食し、剥ぎ落とそうとすることを意味し、ここでは口先だけの甘言で取り入ろうとする不誠実な人物の比喩です。そのような相手を不用意に信頼し(剥に孚す)、近づけてしまうと、必ず危険(厲きこと有り)が伴います。喜びの時であっても、人の本質を見抜く洞察力を失わず、甘い言葉や表面的な態度に惑わされないように、という強い警告です。

上六(じょうりく):

兌(よろこ)びを引(ひ)く。

原文:引兌。

書き下し文:兌(えつ)を引(いん)す。

現代語訳:喜びを引き寄せる(あるいは、喜びが過ぎ去ろうとするのを引き留める)。

ポイント解説:
「兌」の時の最終段階。もはや自分から積極的に喜びを求めるのではなく、自然と喜びが引き寄せられてくる、あるいは、過ぎ去ろうとする喜びを上手に引き留め、その余韻を楽しんでいるような、円熟した境地です。言葉巧みに誘い、人々を楽しませる才能があるとも解釈できます。しかし、その喜びが誠実なものであれば良いのですが、もしそれが表面的なものであれば、やがては虚しさが残るかもしれません。喜びの「質」が問われます。

【兌為沢(だいたく)の「彖伝」】

原文 彖曰。兌、說也。剛中而柔外。說以利貞、是以順乎天、而應乎人。說以先民、民忘其勞。說以犯難、民忘其死。說之大、民勸矣哉。

書き下し文 彖(たん)に曰(いわ)く、兌(だ)は、説(よろこ)ぶなり。剛(ごう)中(うち)にありて柔(じゅう)外(そと)にあり。説(よろこ)びて以(もっ)て貞(てい)に利(よろ)しとは、是(ここ)を以て天(てん)に順(したが)い、而(しか)して人(ひと)に應(おう)ず。説(よろこ)びを以て民(たみ)に先(さき)んずれば、民(たみ)其(そ)の労(ろう)を忘(わす)る。説(よろこ)びを以て難(なん)を犯(おか)せば、民(たみ)其(そ)の死(し)を忘(わす)る。説(よろこ)びの大(おおい)なる、民(たみ)勸(すす)むかな。

現代語訳 彖伝は言う。兌とは、悦ぶことである。(卦の形は)剛健なもの(陽爻)が内側にあり、柔順なもの(陰爻)が外側にある。(卦辞に)「悦びをもって、正しい道を守ることが大切である」とあるのは、そうすることによって天の道理に順い、そして人々の心に応じることができるからである。悦びをもって人々の先頭に立てば、民衆はその苦労を忘れる。悦びをもって困難に立ち向かえば、民衆は死の恐怖さえも忘れる。この悦びの力の偉大さよ、民衆は自ら進んで励むではないか。

ポイント解説
「彖伝」は、この卦の本質が、純粋な「悦び」にあると宣言します。
わたしたちもまた、義務感や自己否定からではなく、心からの「悦び」を羅針盤とすることで、最も力強く、そして持続可能なものとなります。

そして兌為沢の示す理想的な「悦び」のあり方は、内面に「剛」、すなわち、揺るぎない信念や、確固たる強さを持ちながらも、外面には「柔」、すなわち、物腰の柔らかさ、他者への優しさ、そして開かれた笑顔を湛えている状態です。ただ優しいだけでは頼りなく、ただ強いだけでは人を遠ざけてしまいます。この「内なる強さ」と「外なる優しさ」の美しい調和こそが、人々を惹きつけ、深い信頼関係を育むための鍵となるのです。
「これをやれば、もっと自分が好きになる」「こうすることで、誰かが喜んでくれる」。そんな、あなたの心が本当に「悦ぶ」ことは何でしょうか? その悦びこそが、あなたを突き動かす、最も誠実で、最もパワフルなエネルギーなのです。

* 大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方

原文(漢文):象曰。麗澤、兌。君子以朋友講習。

書き下し文:象(しょう)に曰(いわ)く、麗(つら)なる澤(さわ)は兌(だ)なり。君子(くんし)以(もっ)て朋友(ほうゆう)と講習(こうしゅう)す。

現代語訳:象伝は言う。沢が二つ連なり、互いに潤し合っているのが兌の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、友人たちと共に(学問や道を)講じ、習い修める。

ポイント解説:
二つの沢が隣り合い、互いに水を供給し合い、共に潤っている。これが「兌」の最も美しい象徴です。これを見た君子は、「朋友と講習す」、つまり、志を同じくする友人たちと共に集い、互いに教え合い、学び合い、切磋琢磨することの重要性を学びます。真の喜びとは、単なる個人的な快楽ではなく、このように仲間と共に学び、共に成長していくプロセスの中にこそ見出される、という深い教えです。

【むすび】

兌為沢の卦は、わたしたちの人生における「喜び」の本質と、それをいかにして育み、分かち合い、そして自己成長へと繋げていくかという、明るくも深い智慧を授けてくれます。

  • 1. 「和(わ)して兌(よろこ)ぶ」 – あなたの周りに、和やかで誠実な「喜びの輪」を広げよう: 初九や九二が示すように、真の喜びは、まず心からの誠実さ(孚)と、周囲との調和(和)から生まれます。わたしたちも、日々の生活の中で、家族や友人、同僚と、偽りのない心で接し、共に笑い、共に喜びを分かち合う時間を大切にしませんか。その温かい心の交流こそが、和という尊い土壌を豊かに育んでくれるのです。
  • 2. 「朋友(ほうゆう)と講習(こうしゅう)す」 – 共に学び、共に成長する喜びを、仲間と分かち合おう: 大象伝が教えるように、わたしたちの成長や喜びは、信頼できる仲間と共に学び、語り合い、切磋琢磨する中で、さらに大きく、確かなものとなります。「益々善成」の道もまた、一人で黙々と進むだけでなく、時には同じ志を持つ仲間と知恵を出し合い、励まし合いながら進むことで、その楽しさと深みは何倍にもなるでしょう。
  • 3. 「来(きた)りて兌(よろこ)ぶ」の罠(わな)に注意 – あなたの喜びは、自立していますか?: 六三の爻が警告するように、他者に媚びへつらったり、誰かのご機嫌を取ったりすることで得られる喜びは、真の喜びではありません。まず自分自身の内なる価値観や目標をしっかりと持ち、他者に依存しない、自立した喜びを見出すことが大切です。
  • 4. 「貞(ただ)しきに利(よろ)し」 – 喜びの根底に、常に「正しさ」と「誠実さ」を: 卦辞が繰り返し強調するように、どんなに楽しい時であっても、その根底に「正しさ(貞)」がなければ、その喜びは長続きしません。わたしたちも、日々の楽しみや人間関係において、常に自分自身の良心に問いかけ、誠実で、道徳にかなったあり方を心がけること。その「貞」の心が、わたしたちの喜びを、一過性のものではなく、深く、そして持続可能なエネルギーへと変えてくれるのです。

兌為沢の時は、わたしたちの心が解放され、喜びと感謝の気持ちが自然と湧き上がり、人々との間に温かい交流が生まれる、素晴らしい「恵みの時」です。この卦の智慧を胸に、わたしたちもまた、心からの笑顔と誠実な言葉をもって、日々の生活の中に、そして大切な人々との間に、たくさんの美しい「喜びの沢」を創り出し、共に潤い、共に成長していく、素晴らしい循環を体験していきましょう。