〜「感情」を挟まないからこそ、無限に動ける〜
1. 原文(漢文)
天地不仁,以萬物為芻狗。 聖人不仁,以百姓為芻狗。
天地之間,其猶橐龠乎? 虛而不屈,動而愈出。
多言數窮,不如守中。
2. 書き下し文
天地(てんち)は不仁(ふじん)、万物(ばんぶつ)を以(もっ)て芻狗(すうく)と為(な)す。 聖人(せいじん)は不仁、百姓(ひゃくせい)を以て芻狗と為す。
天地の間(あいだ)は、其(そ)れ猶(な)お橐龠(たくやく)の如(ごと)きか。 虚(むな)しくして屈(くっ)せず、動(うご)いて愈〻(いよいよ)出(い)ず。
多言(たげん)は数〻(しばしば)窮(きわ)まる、中(ちゅう)を守(まも)るに如(し)かず。
3. 現代語訳
天と地(大自然)には、人間的な「仁愛(えこひいきや優しさ)」はありません。 万物を、祭祀(さいし)で使う藁(わら)で作った犬の人形(芻狗)のように扱います。(祭りの時は丁重に扱うが、終わればあっさりと捨て去るように、そこには愛も憎しみもなく、ただ自然のサイクルがあるだけです。)
理想的なリーダー(聖人)もまた、特定の誰かに「仁愛」をかけたりはしません。 人々を藁の犬のように、あるがまま、平等に扱います。
天と地の間は、まるで「鞴(ふいご=火を起こす送風機)」のようではないでしょうか。 中は空っぽですが、尽きることなく、動かせば動かすほど、風(エネルギー)が出てきます。
(これを知らずに)あれこれと言葉を尽くして作為を行えば行うほど、行き詰まってしまいます。 それよりは、心の「中心(静寂)」を守り、鞴のように虚心でいるほうが良いのです。
4. ポイント解説
第五章は、私たちが人生の荒波を乗りこなし、淡々と成果を出し続けるための**「究極のリアリズム(現実主義)」**を教えてくれています。
誰にとっても共通する、人生をタフに生き抜く3つの鍵は以下の通りです。
① 世界に対して「期待」せず、ただ「機能」する
「天地不仁(てんちふじん)」は、老子最大のパワーワードです。 私たちは不運に見舞われると「神様はひどい」と嘆きますが、老子は「そもそも自然界に優しさなどない」と言います。雨は善人も悪人も平等に濡らします。相場も社会情勢も、あなたの都合などお構いなしに動きます。
「益々よくなる」ための第一歩は、この冷厳な事実を受け入れること(許容する)です。 「世界は私に優しくしてくれるはずだ」という甘えを捨てた瞬間、被害者意識は消え失せます。「ならば、自分はどう動くか?」という建設的な思考だけが残ります。このドライさが、最強の強さになります。
② 心を「鞴(ふいご)」にする
老子は天地を「鞴(ふいご)」——中は空っぽだが、動かすと風が出る装置——に例えました。 もし鞴の中に物が詰まっていたら、風は出ません。人間も同じです。「こだわり」「感情」「正義感」で心が詰まっていると、変化に対応できず、エネルギーが出なくなります。
常に心を「空っぽ(虚)」にしておくこと。 そうすれば、外からの刺激(チャンスやピンチ)が来た時、それに反応して無限のアイデアや行動力を生み出すことができます。 空っぽであればあるほど、叩かれた時に大きな音が響く。その柔軟な反応力こそが、成長の源です。
③ おしゃべりをやめて、「中心」に戻る
「多言(たげん)は数〻(しばしば)窮(きわ)まる」。 不安な時ほど、人はよく喋り、言い訳をし、必死に動き回ります。しかし、それは鞴の中身を埋めるようなもので、かえって自分の首を絞めます。
迷った時、苦しい時ほど、**「沈黙」**を選んでください。 言葉や行動で無理やり解決しようとせず、自分の内なる「中心(中)」に戻り、静かに座るのです。 嵐の中で動かず、ただ中心に居続けること。そうやってエネルギーの漏出を防ぎ、次に動くべき時(風を送る時)を待つ姿勢が、あなたを確実に良い方向へと導きます。

