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【易経】 第47卦「沢水困(たくすいこん)」– 困窮の淵に差す一条の光、志を貫き夜明けを待つ

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【易経】 第47卦「沢水困(たくすいこん)」– 困窮の淵に差す一条の光、志を貫き夜明けを待つ

1. 卦象(かしょう):

2. 名称(めいしょう): 沢水困(たくすいこん)

3. 【この卦のメッセージ】 
上卦(じょうか):兌(だ) – 沢、喜び、悦楽、少女、口(言葉) *
下卦(かか):坎(かん) – 水、険難、陥る、悩み、心 *
全体のイメージ: 下にある険しい水(坎)が、その上にあるはずの沢(兌)の水を全て吸い尽くし、沢が干上がっている。この「沢水困」の姿は、まさに沢の内部は、とても深く、喜びや楽しみ(兌)が失われ、深く資源が枯渇し、どうにもならない困窮と閉塞感に包まれている状況を象徴しています。「困」という文字は、木が囲いの中に閉じ込められ、伸びることができない様を表し、ここではあらゆる面での行き詰まり、困難、そして苦しみを意味します。 喜びや言葉(兌)は力を失い、内なる険しさや悩み(坎)だけが心を支配する。希望の光が見えず、何をしても裏目に出るような、精神的にも物質的にも追い詰められた、非常に厳しい試練の時です。しかし、この卦は、そのような極限状況の中でこそ、わたしたちが何を本当に大切にし、どのように内なる力を保ち続けるべきかを問いかけています。

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卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ

原文(漢文):困。亨。貞大人吉。无咎。有言不信。

書き下し文: 困(こん)は亨(とお)る。貞(ただ)しければ大人(たいじん)は吉(きち)にして咎(とが)なし。言(げん)有(あ)れども信(しん)ぜられず。

現代語訳: 困(困窮し行き詰まる時)であっても、(正しい道を守り通せば)願いは通る。徳の高い大人(たいじん)が、その正しさを貫けば吉であり、咎めはない。しかし、何かを言っても、すぐには人々に信じてもらえないだろう。

ポイント解説:
この卦辞は、「困」という極めて困難な状況の中にも、一条の希望の光があることを示しています。「亨る」とは、最終的には道が開け、願いが成就する可能性があるということです。しかし、それには厳しい条件があります。それは、「貞大人吉」、つまり、徳の高い大人物が、どんな苦境にあっても正しさ(貞)を固く守り通すこと。そうすれば、吉運を掴み、咎めもありません。ただし、「言有れども信ぜられず」とあるように、この時期は、たとえ正しいことを言っても、すぐには周囲に理解されなかったり、信じてもらえなかったりする苦しさが伴います。忍耐と、内なる信念を貫く強さが求められるのです。

爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語

初六(しょりく):

臀(しり)株木(しゅぼく)に困(くる)しむ。幽谷(ゆうこく)に入(い)る。三歳(さんさい)迯(み)ず。

原文:臀困于株木。入于幽谷。三歳不迯。

書き下し文:臀(しり)株木(しゅぼく)に困(くる)しむ。幽谷(ゆうこく)に入(い)る。三歳(さんさい)にして迯(み)ず。

現代語訳:尻が木の切り株に遮られて進めない。暗い谷底に入り込んでしまう。三年もの長い間、その姿を見ることはない(あるいは、その苦境から抜け出せない)。

ポイント解説:
「困」の始まり。いきなり進退窮まり、まるで木の切り株にお尻が引っかかって動けないように、身動きが取れない状態です。そして、暗く深い谷底(幽谷)に落ち込んでしまい、長期にわたって(三歳)その苦境から抜け出せないことを示唆しています。非常に厳しい状況であり、まずは耐え忍び、時を待つしかありません。

九二(きゅうじ):

酒食(しゅし)に困(くる)しむ。朱紱(しゅふつ)方(まさ)に来(きた)る。享祀(きょうし)に用(もち)うるに利(よろ)し。征(ゆ)けば凶(きょう)。咎(とが)なし。

原文:困于酒食。朱紱方來。利用享祀。征凶。无咎。

書き下し文:酒食(しゅし)に困(くる)しむ。朱紱(しゅふつ)方(まさ)に来(きた)る。享祀(きょうし)に用(もち)うるに利(よろ)し。征(ゆ)けば凶(きょう)。咎(とが)なし。

現代語訳:飲食にも困るほどの状況である。しかし、やがて赤い膝当て(高貴な人物からの援助の象徴)がやって来るだろう。神々への祭祀を行うように、真心をもって感謝し、助けを受け入れるのが良い。積極的に外へ打って出れば凶だが、(慎重に行動すれば)咎めはない。

ポイント解説:
困窮が続き、飲食にも事欠くような厳しい状況です。しかし、この爻は陽爻であり、内卦の中心にあって徳を備えているため、やがては目上の人物からの援助や救いの手(朱紱方に来る)が差し伸べられる可能性があります。その際には、真心からの感謝(享祀に用うるに利し)をもってそれを受け入れ、決して驕ることなく、また、まだ積極的に外へ打って出る(征けば凶)べき時ではないことを自覚し、慎重に行動すれば、咎めはありません。

六三(りくさん):

石(いし)に困(くる)しみ、蒺藜(しつれい)に據(よ)る。其(そ)の宮(きゅう)に入(い)りて、其(そ)の妻(つま)を見(み)ず。凶(きょう)。

原文:困于石。據于蒺藜。入于其宮、不見其妻。凶。

書き下し文:石(せき)に困(くる)しみ、蒺藜(しつれい)に據(よ)る。其(そ)の宮(きゅう)に入(い)りて、其(そ)の妻(さい)を見(み)ず。凶(きょう)。

現代語訳:硬い石の上で困窮し、イバラのような鋭いトゲに囲まれている。自分の家に帰っても、妻の姿を見ることができない(心の安らぎがない)。凶である。

ポイント解説:
この爻は、進退きわまり、まるで硬い石の上で身動きが取れず、周囲を鋭いイバラで囲まれているような、非常に苦しく、逃げ場のない状況を示しています。そのような状況では、たとえ自分の家(宮)に帰っても、心の安らぎ(妻を見ず)を得ることはできません。これは、自分自身の頑固さや、不適切な人間関係、あるいは誤った判断によって、自ら招いた苦境かもしれません。非常に厳しい凶運です。

九四(きゅうし):

来(きた)ること徐徐(じょじょ)たり。金車(きんしゃ)に困(くる)しむ。吝(りん)なれども終(おわり)有(あ)り。**

原文:來徐徐。困于金車。吝、有終。

書き下し文:来(きた)ること徐徐(じょじょ)たり。金車(きんしゃ)に困(くる)しむ。吝(りん)なれども終(おわり)有(あ)り。

現代語訳:救助がゆっくりとやって来る。しかし、立派な金の車(高い地位や富)に執着して困窮している。恥ずべきことではあるが、いずれその困窮も終わりを迎える。

ポイント解説:
困難な状況に、ようやく救いの兆しがゆっくりと(徐徐たり)見え始めています。しかし、この爻は、立派な乗り物(金車=高い地位や富、あるいはプライド)に固執するあまり、身動きが取れなくなって困窮している状態です。その執着を捨てきれないため、恥ずかしい思い(吝)をするかもしれませんが、それでも救いは近づいており、いずれその苦しみは終わる(終り有り)と示唆しています。不要なプライドや執着を手放すことが、真の解放への鍵です。

九五(きゅうご):

劓(はなき)られ刖(あしき)らる。赤紱(せきふつ)に困(くる)しむ。乃(すなわち)徐(おもむろ)に説(よろこ)び有(あ)り。祭祀(さいし)に用(もち)うるに利(よろ)し。**

原文:劓刖。困于赤紱。乃徐有説。利用祭祀。

書き下し文:劓(ぎ)せられ刖(げつ)せらる。赤紱(せきふつ)に困(くる)しむ。乃(すなわち)徐(おもむろ)に説(えつ)有(あ)り。祭祀(さいし)に用(もち)うるに利(よろ)し。

現代語訳:鼻をそがれ、足を切られるような、非常に厳しい刑罰を受ける(ほどの困難)。あるいは、君主としての赤い膝当て(赤紱=高い地位の象徴)が、かえって苦しみの原因となる。しかし、やがて徐々に喜びが訪れるだろう。神々への祭祀を行うように、真心をもって感謝し、事にあたるのが良い。

ポイント解説:
君主の位にありながら、まるで鼻や足を切られるような、極めて屈辱的で厳しい困難(劓刖)に直面しています。その高い地位や責任(赤紱)が、かえって苦しみを生んでいるのかもしれません。しかし、この爻は陽剛中正の徳を備えているため、この極限的な苦難を耐え忍ぶことで、やがては徐々に状況が好転し、喜び(説有り)が訪れます。このような時には、神々への祭祀を行うように、謙虚に天命を受け入れ、真心と感謝の気持ちを忘れずにいることが、さらなる吉運を呼び込みます。

上六(じょうりく):

葛藟(かつるい)に困(くる)しみ、臲卼(げつごつ)たり。曰(いわ)く動(うご)けば悔(くい)あり、悔(く)ゆとも。征(ゆ)けば吉(きち)。

原文:困于葛藟、于臲卼。曰動悔有悔。征吉。

書き下し文:葛藟(かつるい)に困(くる)しみ、臲卼(げつごつ)たり。曰(いわ)く動(うご)けば悔(くい)あり、悔(く)ゆとも。征(ゆ)けば吉(きち)。

現代語訳:葛の蔓(つる)にがんじがらめにされ、不安定で危険な状態にある。「動けば後悔するだろう、しかし(動かなくても)後悔しているのだ」と言う。思い切って進んでいけば、最終的には吉である。

ポイント解説:
「困」の極点。まるで葛の蔓に絡め取られ、不安定で危険な高い場所(臲卼たり)で身動きが取れない、八方塞がりの状態です。これまで動かずにいたことを後悔し、「今さら動いても、また後悔するだけかもしれないが、このままではいけない!」という、強い葛藤と決意が感じられます。このような極限状況においては、もはや失うものは何もないと覚悟を決め、現状打破のために勇気を持って行動(征けば)するならば、意外にも吉運が開ける、という逆転の可能性を示唆しています。

大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方

原文(漢文):象曰。澤无水、困。君子以致命遂志。

書き下し文:象(しょう)に曰(いわ)く、澤(さわ)に水(みず)无(な)きは困(こん)なり。君子(くんし)以(もっ)て命(めい)を致(いた)し志(こころざし)を遂(と)ぐ。

現代語訳:象伝は言う。沢に水が一滴もないのが困の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、このような困窮の極みにおいては、命を懸けてでも、その志を最後まで貫き通す。

ポイント解説:
沢の水が完全に干上がり、生命の源が枯渇してしまった。これが「困」の究極の象徴です。これを見た君子は、「命を致し志を遂ぐ」、つまり、たとえ自分の命が危険に晒されるような極限状況にあっても、決して自分自身の持つ高い志や、人生をかけて成し遂げたいと願う目的(志)を諦めることなく、最後までそれを貫き通そうとします。これは、逆境における人間の尊厳と、不屈の精神力の重要性を、最も力強く教えている言葉です。

【むすび】

沢水困の卦は、わたしたちの人生における最も厳しい「困窮」や「試練」の時に、いかにして希望を失わず、内なる力を奮い立たせ、そしてその経験を魂の成長へと繋げていくかという、深遠で力強い智慧を授けてくれます。

  • 1. 「貞(ただ)しければ大人(たいじん)は吉(きち)」 – どんな苦境でも、あなたの「誠実さ」と「正しさ」を灯し続けよう: わたしたちが人生でどうしようもない困窮に陥った時、卦辞が教えるように、最も大切なのは、自分自身の内なる「誠実さ(孚)」と「正しさ(貞)」を見失わないことです。たとえ周囲があなたを理解せず(言有れども信ぜられず)、状況が絶望的に見えても、あなたの心が真実と共にある限り、必ずや道は開け、その困難はあなたをより大きな人間へと成長させるでしょう。
  • 2. 「命(めい)を致(いた)し志(こころざし)を遂(と)ぐ」 – 逆境こそ、あなたの「真の志」を試す砥石(といし): 大象伝が示すように、困窮の極みは、わたしたちが「本当に何を大切にし、何を成し遂げたいのか」という「志」を、命懸けで問い直し、そしてそれを貫き通す覚悟を固める時です。わたしたちの道は、平坦な時だけにあるのではありません。むしろ、このような厳しい試練の中でこそ、魂は磨かれ、真の強さと、揺るぎない人生の目的が鍛え上げられるのです。
  • 3. 「朱紱(しゅふつ)方(まさ)に来(きた)る」「朋(とも)来(きた)る」 – 助けを信じ、感謝と共に受け入れる心を: 九二や(水山蹇の)九五の爻が示すように、誠実に困難と向き合っていれば、必ずや予期せぬところから助けの手が差し伸べられたり、志を同じくする仲間が現れたりするものです。わたしたちも、困窮の時にこそ、他者への信頼を失わず、差し伸べられた助けを感謝の心で受け入れ、そしていつか自分も誰かを助けられるように、という思いを育んでいきましょう。その繋がりが、わたしたちを「益々よく」してくれます。
  • 4. 「動(うご)けば悔(くい)あり、悔(く)ゆとも。征(ゆ)けば吉(きち)」 – 時には、覚悟を決めて現状を打破する勇気を: 上六の爻が示すように、もはやどうにもならない閉塞状況にあり、このままではいけないと強く感じるならば、たとえリスクがあっても、現状を打破するために勇気を持って行動(征けば)することが、最終的に吉運を切り拓くことがあります。時に、過去の後悔や未来への不安を乗り越え、未知の可能性へと飛び込む、そのような大胆な決断をも含むのです。

沢水困の時は、わたしたちの人間としての器、精神力、そして真の志が、最も厳しく試される時です。しかし、この卦は決してわたしたちを絶望させるためにあるのではありません。むしろ、この極限的な困窮と試練の中からこそ、わたしたちは最も純粋で、最も強靭な「生きる力」と「感謝の心」を見出し、そしてそれをバネにして、想像もできないほど大きく、そして深い「日々新たに、益々よくなる」人生を歩み始めることができるのだと、力強く教えてくれているのです。