【八卦の詳解】「震(しん)」– 雷鳴の如き決断と、停滞を打ち破る『行動』の力
1. 卦象(かしょう): ☳

2. 名称(めいしょう): 震(しん)
【震】– 大地を奮わす雷、全ての「動き」の始まり
卦象と象徴
二本の柔順な陰爻(- -)の下に、一本の力強い陽爻(—)が位置し、下から上へと突き上げようとしている姿。これは、まさに大地の中から、新しいエネルギーが力強く生まれ、奮い立とうとする様を表しています。
自然界の象徴
雷
性質
動(どう:動くこと)、奮(ふん:奮い立つこと)、威(い:威力)、発奮、奮起、音響、飛、移動、決断、驚、志、成功、道(人道)
人物における象徴
長男(ちょうなん)、天子、王侯、壮者、行人、勇者、青年、
動物における象徴
龍(りゅう)、馬、隼
物質における象徴
樹木、若竹、車、バイク、飛行機、枡、家電製品、楽器、花火、履物、大道
物価
値動き激しく、先に高騰する兆し
病気
肝臓、胆嚢、
足、アキレス腱、関節の病、骨折など
突発事故や、心悸亢進、逆上、脳出血、てんかん発作、
突発症状で激しいが、意外に軽いこともある
その他
天候 おおかた快晴 雷鳴轟く荒天、台風や地震などの場合もあり。
季節 春
方位 先天図 北東 後天図 東
数 易数4 五行数 3、8
時間 卯刻 午前5時〜7時
色 青や若草色
味 酸味
- その物語: 「震」とは、静寂を破り、天地を揺るがす一撃の雷鳴です。その衝撃は、わたしたちに一瞬の驚きや恐れを与えるかもしれません。しかし、それは同時に、古い秩序を揺さぶり、淀んだ空気を浄化し、そして万物が新たな活動を開始するための、力強い「号砲」でもあります。 わたしたちの心における「震」は、「よし、やろう!」と決意するその瞬間の衝動であり、停滞した状況や、自分自身の内なる迷いを打開するための勇気ある第一歩であり、そして、新しい挑戦へと自らを奮い立たせる、純粋な「行動」のエネルギーそのものなのです。全ての「変化」は、この「震」の動きから始まります。
「恐懼脩省(きょうくしゅうせい)」の智慧 – 衝撃を「自己成長」の糧に変える
「震」のエネルギーが二つ重なると、易経六十四卦の第五十一卦「震為雷(しんいらい)」となります。その卦の性質を説明する大象伝(たいしょうでん)には、「震」の衝撃とどう向き合うべきかを示す、**「恐懼脩省(きょうくしゅうせい)」**という深い智慧が記されています。
「象(しょう)に曰(いわ)く、洊雷(しきりにらい)するは震(しん)なり。君子(くんし)以(もっ)て恐懼(きょうく)し脩省(しゅうせい)す。」 (象伝は言う。雷が繰り返し鳴り響くのが震の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、恐れ慎む心をもって、自らを修養し、反省する。)
雷鳴が繰り返し轟く時、わたしたちは本能的に身をすくめ、畏れを抱きます。しかし、「震」の智慧は、その「恐懼(恐れ慎む心)」の中にこそ、自分自身を深く省み(省)、行いを改め、徳を修める(脩)絶好の機会があることを教えています。 予期せぬ衝撃的な出来事や、人生を揺るがすような大きな変化は、わたしたちを慣れ親しんだ安心な日常から揺り動かし、本当に大切なものは何か、自分の生き方はこれで良いのか、という根源的な問いを投げかけます。その衝撃を、ただ恐れたり、嘆いたりするだけでなく、自己変革のための天からの力強いメッセージとして受け止め、内省と成長の糧とすること。それこそが、「恐懼脩省」の精神なのです。
【わたしたちと「震」の力】– 内なる雷を呼び覚ます、3つのヒント
では、わたしたちはこのダイナミックで、時に衝撃的でもある「震」のエネルギーを、日々に、どのように活していけば良いのでしょうか。
- ヒント1:停滞を感じたら、「小さな雷」を自分で起こしてみる 人生の変化は、いつも外からやって来るのを待つ必要はありません。もし、わたしたちの日常に停滞感や閉塞感を覚えたなら、あなた自身で「震」のエネルギーを呼び覚ましてみませんか。いつもと違う道を歩いてみる、新しいジャンルの音楽を聴く、普段話さない人に勇気を出して声をかけてみる、部屋の模様替えをしてみる…。そんな、あなた自身が起こす「小さな雷」が、淀んだ空気を一掃し、新しい視点やエネルギーの流れを生み出す、素晴らしいきっかけとなるでしょう。
- ヒント2:決断という名の「雷鳴」を、あなたの心に轟かせる 「いつかやろう」「もう少し考えてから…」そう言って、大切な決断を先延ばしにしていることはありませんか? 「震」のエネルギーは、迷いや逡巡を断ち切り、未来へ向かう一歩を踏み出すための「決断の力」を与えてくれます。「やる!」と決めたその瞬間に、あなたの内なる宇宙に雷鳴が轟き、曖昧だった状況は動き始め、物事は力強く前進していくでしょう。わたしたちの旅は、この「決断する勇気」から加速します。
- ヒント3:衝撃の中でも「匕鬯(ひちょう)を喪(うしな)わず」 – 不動の中心軸を保つ 震為雷の卦辞に、「震は百里を驚かすも、匕鬯を喪わず」とあるように、予期せぬ出来事が起こり、心が激しく揺さぶられる時こそ、「震」のもう一つの智慧が試されます。それは、どんな混乱の中でも、自分にとって最も大切なもの、譲れない価値観、そして心の平静さ(神聖な祭器である匕鬯)を失わないことです。その不動の中心軸があってこそ、わたしたちは衝撃という大きなエネルギーに飲み込まれることなく、それを乗りこなし、むしろ成長の力へと変えていけるのです。
【むすび】奮い立て、動き出せ – あなたの「第一歩」が、世界を揺るがす始まりとなる
「震」の力は、特別な誰かだけのものではありません。それは、新しい朝に力強く目覚める力、困難に立ち向かおうと心を奮い立たせる力、そして「変わりたい」「より良くなりたい」と願う、わたしたち全ての心に宿る、尊い生命の衝動です。
わたしたちは、その内なる雷鳴に、もっと耳を澄ませて良いのです。
さあ、わたしたちも心の中に響く「始まりの雷鳴」を信頼し、恐れという名の静寂を手放し、勇気ある第一歩を踏み出しましょう。あなたのその、今日踏み出す小さな「動き」が、あなた自身の、そしてもしかしたら世界の停滞さえも打ち破る、力強く、そして輝かしい始まりとなるのです。