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【易】 第3卦「水雷屯(すいらいちゅん)」– 始まりの苦難に屈せず、希望の芽を育む時

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【第3卦】「水雷屯(すいらいちゅん)」– 始まりの苦難に屈せず、希望の芽を育む時


1. 卦象:

2. 卦名: 水雷屯(すいらいちゅん)

3. 【この卦のメッセージ】 
* 上卦:坎(かん) – 水、険難、陥る、悩み、中男
* 下卦:震(しん) – 雷、動く、奮い立つ、長男 *

全体のイメージ: 下にある雷(震)が、力強く動き出し、地上に芽を出そうとしています。しかし、その上には険しい水(坎)が横たわり、その行く手を阻んでいます。この「水雷屯」の姿は、まるで厚い土や障害物を押し分けて、ようやく芽を出そうとする草木の、産みの苦しみを象徴しています。 新しい生命が生まれようとする時、新しい物事が始まろうとする時には、必ずこのような初期の困難や混乱(屯)が伴うものです。しかし、この困難の中には、それを乗り越えようとする力強いエネルギー(雷)と、やがて万物を潤す恵みとなる可能性(水)もまた秘められているのです。希望と困難が交錯する、まさに「始まりの時」の風景がここにあります。

 

1. 卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ

    1.  **原文(漢文):** 屯。元亨。利貞。勿用有攸往。利建侯。

    2.  **書き下し文:** 屯(ちゅん)は元(おおい)に亨(とお)る。貞(ただ)しきに利(よろ)し。往(ゆ)く攸(ところ)有(あ)るに用(もち)うる勿(なか)れ。侯(こう)を建(た)つるに利(よろ)し。

    3.  **現代語訳:** 屯の時は、願いは大きく通り、成就する。ただし、正しい道を守ることが大切である。まだ闇雲に進んでいくべきではない。諸侯を立てるように、よき協力者や支持基盤を築くのが良い。

    4.  **ポイント解説:**

        「屯」は困難な始まりを示しますが、卦辞は意外にも「元いに亨る(願いは大きく通る)」と、大きな可能性を秘めていることを告げています。ただし、その成功には「貞(正しい道を守ること)」が条件です。そして重要なのは、「往く攸有るに用うる勿れ(闇雲に進むな)」という戒め。今はまだ独力で突き進む時ではなく、むしろ「侯を建つるに利し(協力者を求め、体制を整えるのが良い)」と、慎重に基盤を固め、助けを得ることの重要性を説いています。焦らず、正道を守り、仲間と共に困難を乗り越えることで、大きな成功へと繋がるのです。

2. 爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語

 

初爻

磐桓(ばんかん)たり。貞(てい)に居(お)るに利(よろ)し。侯(こう)を建(た)つるに利(よろ)し。**

        1.  **原文:磐桓。利居貞。利建侯。

        2.  **書き下し文:磐桓(ばんかん)たり。貞(てい)に居(お)るに利(よろ)し。侯(こう)を建(た)つるに利(よろ)し。

        3.  **現代語訳:大きな岩が行く手を阻み、進退窮まっている。正しい道を守り、今の場所に留まるのが良い。そして、協力者を求め、体制を整えるのが良い。

        4.  **ポイント解説:**

            物事のまさに始まり。目の前には大きな障害(磐)があり、進むべきか退くべきか、逡巡(桓)してしまう状況です。このような時は、無理に進もうとせず、まずは正しい姿勢(貞)を保ち、現状維持に努めることが大切です。そして、卦辞にもあったように、独力で解決しようとせず、信頼できる協力者(侯)を見つけ、支援体制を築くことに力を注ぐべき時です。

 二爻

屯如(ちゅんじょ)たり邅如(てんじょ)たり。馬(うま)に乘(の)りて班如(はんじょ)たり。寇(あだ)にあらず、婚媾(こんこう)せんとす。女子(じょし)貞(てい)にして字(あざな)せず、十年(じゅうねん)にして乃(すなわち)字(あざな)す。**

        1.  **原文:屯如邅如。乘馬班如。匪寇婚媾。女子貞不字、十年乃字。

        2.  **書き下し文:屯如(ちゅんじょ)たり邅如(てんじょ)たり。馬(うま)に乘(の)りて班如(はんじょ)たり。寇(あだ)に非(あら)ず、婚媾(こんこう)せんとす。女子(じょし)は貞(てい)にして字(あざな)せず、十年(じゅうねん)にして乃(すなわち)字(あざな)す。

        3.  **現代語訳:困難が重なり、進もうとしてもなかなか進めない。馬に乗って進もうとするが行き悩む。しかし、それは敵意によるものではなく、結婚を申し込もうとする相手のようなものだ(すぐには結ばれないが、悪いことではない)。貞淑な女子がすぐには嫁がないように、たとえ十年かかっても、時が満ちれば結ばれる。

        4.  **ポイント解説:**

            困難(屯如)が続き、進退に窮する(邅如、乘馬班如)苦しい状況です。しかし、この困難は悪意ある敵(寇に非ず)によるものではなく、むしろ将来的に良き縁となる相手(婚媾)との出会いのように、すぐには成就しないものの、希望を伴うものであると示唆しています。貞節を守る女子が、時間をかけて良き相手を見極めるように、焦らず、正しい道を守り(貞にして)、時が熟すのを待つ(十年)ことの重要性を教えています。忍耐と誠実さが、やがて実を結ぶでしょう。

三爻:

鹿(しか)に即(つ)くに虞(ぐ)なし。惟(た)だ林中(りんちゅう)に入(い)る。君子(くんし)は幾(き)を見て舎(お)くに如(し)かず。往(ゆ)けば吝(りん)。**

        1.  **原文:即鹿无虞。惟入于林中。君子幾不如舍。往吝。

        2.  **書き下し文:鹿(しか)に即(つ)くに虞(ぐ)なし。惟(た)だ林中(りんちゅう)に入(い)る。君子(くんし)は幾(き)を見て舎(お)くに如(し)かず。往(ゆ)けば吝(りん)。

        3.  **現代語訳:鹿を追うのに、案内役の山番がいない。ただやみくもに林の奥深くに入っていくだけだ。君子たる者は、そのような状況の機微を察して、追うのをやめるに越したことはない。そのまま進めば、必ず困窮する。

        4.  **ポイント解説:**

            目先の獲物(鹿)に心を奪われ、案内役(虞=適切な助言者や計画)もなしに、無謀にも危険な森の奥へと深入りしてしまう状況です。賢明な君子であれば、状況の不利を察知し、深追いするのをやめるべきです。そのまま欲望に駆られて進めば、必ず道に迷い、困窮する(吝)ことになるという警告です。冷静な判断と、時には諦める勇気も必要です。

 

四爻:

 

馬(うま)に乘(の)りて班如(はんじょ)たり。婚媾(こんこう)を求(もと)む。往(ゆ)けば吉(きち)、利(よろ)しからざるなし。**

        1.  **原文:乘馬班如。求婚媾。往吉、无不利。

        2.  **書き下し文:(りくし)。馬(うま)に乘(の)りて班如(はんじょ)たり。婚媾(こんこう)を求(もと)む。往(ゆ)けば吉(きち)、利(よろ)しからざるなし。

        3.  **現代語訳:馬に乗って進もうとするが行き悩む。しかし、それは良き協力者を求めているからである。進んでいけば吉であり、利益がないということはない。

        4.  **ポイント解説:**

            六二と似て、進みたくても進めない状況(乘馬班如)ですが、ここでは積極的に良きパートナーや協力者(婚媾)を求めて動くことが推奨されています。初九や六二が助けを「待つ」のに対し、六四は自ら「求める」姿勢が吉を呼びます。誠意をもって協力を求めれば、必ず道は開け、何事においても良い結果(吉、利しからざるなし)が得られるでしょう。積極的な働きかけが鍵となります。

五爻:

其(そ)の膏(こう)に屯(とどこお)る。小(しょう)なるも貞(てい)なれば吉(きち)、大(だい)なるも貞(てい)なれば凶(きょう)。**

        1.  **原文:屯其膏。小貞吉、大貞凶。

        2.  **書き下し文:其(そ)の膏(こう)に屯(とどこお)る。小(しょう)なるも貞(てい)なれば吉(きち)、大(だい)なるも貞(てい)なれば凶(きょう)。

        3.  **現代語訳:恵み(膏)を与えるのに困難が伴う。小さなことであれば、正しい道を守れば吉であるが、大きなことで正しい道を守ろうとしても(施しきれず)凶となる。

        4.  **ポイント解説:**

            力のある立場にいますが、その恵み(膏)を周囲に行き渡らせるのに困難(屯)が伴う時です。自分だけが恵みを得て、それを独り占めしているような状況かもしれません。小さな範囲で、自分の身の丈に合った正しい行い(小貞)をすれば吉ですが、あまりに大きな理想や広範囲への施しを、独力で、しかも現状維持のまま行おうとする(大貞)と、かえって無理が生じ、凶運を招きます。まずは身近なところから、できる範囲で誠実に行動することが大切です。

上爻:

馬(うま)に乘(の)りて班如(はんじょ)たり。泣血(きゅうけつ)漣如(れんじょ)たり。**

        1.  **原文:乘馬班如。泣血漣如。

        2.  **書き下し文:馬(うま)に乘(の)りて班如(はんじょ)たり。泣血(きゅうけつ)漣如(れんじょ)たり。

        3.  **現代語訳:馬に乗って進もうとするが行き悩む。血の涙を流し、とめどなく泣き続ける。

        4.  **ポイント解説:**

            屯の困難が極まり、進退窮まってどうすることもできない、非常に苦しい状況です。助けもなく、希望も見いだせず、ただ血の涙を流すばかり。これは、これまでの爻で示された教え(助けを求める、時を待つ、無謀な行動を慎むなど)に従わなかった結果かもしれません。このような状況に陥らないよう、屯の時には慎重な行動と、周囲との協調がいかに大切であるかを、強く警告しています。

3. 大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方**

    1.  **原文(漢文):** 象曰。雲雷、屯。君子以經綸。

    2.  **書き下し文:** 象(しょう)に曰(いわ)く、雲雷(うんらい)は屯(ちゅん)なり。君子(くんし)以(もっ)て經綸(けいりん)す。

    3.  **現代語訳:** 象伝は言う。雲が垂れこめ、雷がその下に鳴り響いているのが屯の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、物事を順序立てて整え、国家を治める。

    4.  **ポイント解説:**

        厚い雲(水=坎)の下で、雷(震)が鳴り響き、まだ雨となって地上を潤すに至らない、エネルギーが鬱屈した状態が「屯」です。このような混沌とした始まりの時、君子はただ手をこまねいているのではなく、「經綸(けいりん)」を行います。「經綸」とは、もつれた糸を解きほぐし、縦糸(經)と横糸(綸)を整然と織り上げていくように、物事の秩序を回復し、組織や国家を正しく治めていくための活動を意味します。困難な状況だからこそ、冷静に全体を見渡し、根本から物事を整えていくことの重要性を示しています。

むすび

水雷屯の卦は、新しい始まりに伴う「産みの苦しみ」と、その困難の中からいかにして希望の芽を育てていくかという、力強い智慧をわたしたちに教えてくれます。

水雷屯の時は、まさにわたしたちの意志と智慧が試される時です。しかし、この困難な始まりの時期を、賢明に乗り越えることができたなら、そこには必ず、力強い成長と、豊かな実りに満ちた未来が待っているはずです。