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【易経】 第39卦「水山蹇(すいざんけん)」– 行き悩む困難に立ち向かい、内を修めて道を拓く試練

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【易経】 第39卦「水山蹇(すいざんけん)」– 行き悩む困難に立ち向かい、内を修めて道を拓く試練

1. 卦象(かしょう):

2. 名称(めいしょう): 水山蹇(すいざんけん)

3.【この卦のメッセージ】
上卦(じょうか):坎(かん) – 水、険難、陥る、悩み、深い谷川
下卦(かか):艮(ごん) – 山、止まる、篤実、静止、険しい山
全体のイメージ: 下にはどっしりと動かない険しい山(艮)がそびえ立ち、その行く手前方には、さらに深い谷川のような険難な水(坎)が横たわっている。この「水山蹇」の姿は、まさに前門の虎、後門の狼ならぬ、「前に進めば険しい水、後ろに退こうにも険しい山」という、進退窮まった、八方塞がりの困難な状況を鮮明に象徴しています。「蹇」という文字は、足が不自由で歩行が困難な様を表し、ここでは物事がスムーズに進まず、行き悩み、立ち往生してしまう苦しさを意味します。 しかし、この卦は単に絶望的な状況を示すだけではありません。山は静止し、深く思慮する智慧を、水は困難にもまれながらもやがては流れを見出す柔軟性と持続力を秘めています。この卦は、このような極限的な困難の中でこそ、わたしたちが真の人間力や内なる徳を磨き、賢明な判断と他者との協力を通じて、必ずや活路を見出すことができるという、試練と成長の物語を内包しているのです。

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卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ

原文(漢文):蹇。利西南。不利東北。利見大人。貞吉。

書き下し文:蹇(けん)は西南(せいなん)に利(よろ)し。東北(とうほく)に利(よろ)しからず。大人(たいじん)を見(み)るに利(よろ)し。貞(てい)なれば吉(きち)。

現代語訳:蹇(行き悩む困難の時)は、西南の方へ進むのが良い。東北の方へ進むのは良くない。徳の高い優れた人物(大人)に会い、その助けを求めるのが良い。正しい道を守り続ければ、最終的には吉となる。

ポイント解説:
この卦辞は、「蹇」という困難な状況における、具体的な行動指針を示しています。「西南に利し」とは、坤(地、平易、大衆)の方角である西南へ向かう、つまり、困難の少ない穏やかな道を選び、人々の中に身を置いて協力を求めるのが良い、という意味です。逆に「東北に利しからず」とは、艮(山、険阻、孤高)の方角である東北へ、つまり、さらなる困難や孤立へと自ら進んでいくのは避けるべきである、ということです。そして最も重要なのが「大人を見るに利し」、つまり、このような困難な時には、独力で解決しようとせず、徳と見識を備えた優れた人物(大人)の指導や助けを積極的に求めることが、道を切り拓く鍵となる、と教えています。そして、どんな困難な状況にあっても「貞なれば吉」、つまり、正しい道(貞)を固く守り続けるならば、最終的には必ず良い結果(吉)が得られると、力強く励ましています。

爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語

初六(しょりく):

往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(きた)れば誉(ほまれ)あり。

原文:往蹇來譽。

書き下し文:往(ゆ)けば蹇(けん)、来(きた)れば誉(よ)。

現代語訳:無理に進んで行けば困難に行き悩むが、引き返して(あるいは、静かに時を待てば)名誉や賞賛がある。

ポイント解説:
困難の始まり。まだ状況も整わず、力も不足している時に、無理に前進しようとすれば(往けば蹇み)、必ず行き詰まります。このような時は、勇気を持って引き返す(来れば)、あるいは現状に留まり、静かに時を待つことが賢明です。そうすれば、かえって周囲からの評価(誉あり)を得て、無用な消耗を避けることができます。

六二(りくじ):

王臣(おうしん)蹇蹇(けんけん)たり。躬(み)の故(ゆえ)に匪(あら)ず。

原文:王臣蹇蹇。匪躬之故。

書き下し文:王臣(おうしん)蹇蹇(けんけん)たり。躬(み)の故(ゆえ)に匪(あら)ず。

現代語訳:王の臣下として、困難に次ぐ困難に直面している。しかし、それは自分自身の能力不足や過失によるものではない(時勢や状況によるものである)。

ポイント解説:
この爻は、誠実に職務を果たそうとしているにもかかわらず、次から次へと困難(蹇蹇)に見舞われる、中間管理職のような苦しい立場を示しています。しかし、その困難は、必ずしも自分自身の責任(躬の故に匪ず)ではなく、時運や外部環境によるものである場合が多いのです。このような時は、自分を責めすぎず、耐え忍び、誠実に自分の務めを果たし続けることが大切です。必ず理解者や協力者が現れるでしょう。

九三(きゅうさん):

往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(きた)れば反(かえ)る。**

原文:往蹇來反。

書き下し文:(きゅうさん)。往(ゆ)けば蹇(けん)、来(きた)れば反(はん)す。

現代語訳:進んで行けば困難に行き悩むので、引き返してくる。

ポイント解説:
九三は陽爻で進もうとする力はありますが、上下を陰爻に挟まれ、また不正な位置にいるため、前進すれば必ず困難(蹇み)に直面します。そのため、賢明にも危険を察知し、無理に進むことを諦めて引き返してくる(来れば反る)ことを選択します。これは、状況判断の的確さと、時には退く勇気を持つことの重要性を示しています。

六四(りくし):

往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(きた)れば連(つら)なる。

原文:往蹇來連。

書き下し文:往(ゆ)けば蹇(けん)、来(きた)れば連(れん)す。

現代語訳:進んで行けば困難に行き悩むが、引き返してくれば、志を同じくする者たちと連携することができる。

ポイント解説:
この爻もまた、前進すれば困難(蹇み)が待ち受けています。しかし、無理に進むことをやめ、引き返して(来れば)、九五の賢明な君主や、同じく困難を乗り越えようとする仲間たちと協力し合う(連なる)ならば、道が開けることを示唆しています。孤立せずに、信頼できる人々と力を合わせることの重要性を示しています。

九五(きゅうご):

大蹇(たいけん)にして朋(とも)来(きた)る。

原文:大蹇朋來。

書き下し文:大蹇(たいけん)にして朋(ほう)来(きた)る。

現代語訳:非常に大きな困難の中にあるが、多くの友人たちが助けに来てくれる。

ポイント解説:
君主の位にありながら、非常に大きな困難(大蹇)に直面しています。しかし、九五は中正の徳を備え、多くの人々から信頼されているため、その困難を見かねて、多くの友人や協力者(朋)が自ずと助けに集まってきます。これは、日頃からの徳行と人望がいかに大切であるか、そして困難な時にこそ真の友情が試され、輝くことを教えています。

上六(じょうりく):

往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(きた)れば碩(おおい)なり。吉(きち)。大人(たいじん)を見(み)るに利(よろ)し。

原文:往蹇來碩。吉。利見大人。

書き下し文:往(ゆ)けば蹇(けん)、来(きた)れば碩(せき)なり。吉(きち)。大人(たいじん)を見(み)るに利(よろ)し。

現代語訳:進んで行けば困難に行き悩むが、引き返して(内省し、徳を積めば)大きな成果がある。吉である。徳の高い優れた人物(大人)に会い、その助けを求めるのが良い。

ポイント解説:
「蹇」の時の最終段階。もはや外に向かって無理に進む(往けば蹇み)べきではありません。むしろ、これまでの経験を活かし、内面を見つめ直し、徳を積み重ねる(来れば碩なり)ことで、大きな成果や精神的な豊かさを得ることができます。そして、卦辞と同様に、ここでも「大人を見るに利し」とあり、最後まで賢者の指導や助けを求めることの重要性が強調されています。困難を乗り越えた先には、大きな実りがあるのです。

大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方

原文(漢文):象曰。山上有水、蹇。君子以反身脩德。

書き下し文: 象(しょう)に曰(いわ)く、山(やま)の上(うえ)に水(みず)有(あ)るは蹇(けん)なり。君子(くんし)以(もっ)て身(み)に反(かえ)りて德(とく)を脩(おさ)む。

現代語訳:象伝は言う。山の上に水があって、行く手を阻んでいるのが蹇の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、外に向かって進むのではなく、自分自身の内面に立ち返り、徳を修養する。

ポイント解説:
険しい山(艮)の上に、さらに困難な水(坎)が重なり、進むに行けないのが「蹇」の象徴です。これを見た君子は、このような時には、無理に外部の障害を突破しようとするのではなく、「身に反りて德を脩む」、つまり、自分自身の内面(身)に意識を向け、自己を深く省み、そして人間としての徳性(德)を磨き、養う(脩む)ことの重要性を学びます。外的な行動が制限される時こそ、内的な成長を遂げる絶好の機会である、という深い教えです。

【むすび】

水山蹇の卦は、わたしたちの人生における「行き詰まり」や「困難」という、避けては通れない試練の時に、いかにして希望を失わず、内なる力を養い、そして賢明に道を切り拓いていくかという、実践的で深い智慧を授けてくれます。

    • 1. 「身(み)に反(かえ)りて德(とく)を脩(おさ)む」 – 困難は、内なる自分を深く見つめ、磨き上げる最高の機会: わたしたちが人生で大きな壁にぶつかり、思うように前に進めないと感じる時、それは決して無駄な時間ではありません。水山蹇の大象伝が教えるように、そのような時こそ、外に向かっていた意識を自分自身の内面へと向け、「わたしにとって本当に大切なものは何だろうか」「この経験から何を学ぶべきだろうか」「自分にはどんな徳が足りないのだろうか」と深く内省し、人間としての徳性を磨き上げる、絶好の機会なのです。この内なる充実は、必ずや未来の大きな力となります。

 

    • 2. 「往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(きた)れば誉(ほまれ)あり/反(かえ)る/連(つら)なる/碩(おおい)なり」 – 時には、「退く勇気」「待つ賢明さ」も大切な一歩: 多くの爻が示すように、「蹇」の時には、無理に前進しようとすることが、必ずしも最善の策ではありません。時には、勇気を持って一時的に退いたり(初六、九三)、状況が好転するのを辛抱強く待ったり(六二)、あるいは仲間と連携して力を合わせたり(六四)することが、結果としてより大きな成果や賞賛に繋がることがあります。常に前進することだけを意味するのではなく、状況に応じて柔軟に、そして賢明に立ち振る舞うことでもあるのです。

 

水山蹇の時は、わたしたちの人間としての真価、忍耐力、そして智慧が深く試される時です。しかし、この卦は決してわたしたちを絶望させるものではありません。むしろ、この困難な試練を乗り越えることで、わたしたちはより強く、より賢く、そしてより深い人間的成長を遂げることができるのだと、静かに、しかし力強く教えてくれているのです。この卦の智慧を胸に、どんな困難な状況も大切なステップとして、勇気と希望をもって歩んでいきましょう。