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【易経 】第51卦「震為雷(しんいらい)」– 驚天動地の衝撃に心を定め、内省と勇気で道を拓く

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【易経 第51卦】「震為雷(しんいらい)」– 驚天動地の衝撃に心を定め、内省と勇気で道を拓く
1. 卦象(かしょう): ䷲

2. 名称(めいしょう): 震為雷(しんいらい)

3. 【この卦の言葉メッセージ】
上卦(じょうか):震(しん) – 雷、動く、奮い立つ、長男 *
下卦(かか):震(しん) – 雷、動く、奮い立つ、長男 *
全体のイメージ: 雷(震)が、さらにその上に雷(震)を重ねる。この「震為雷」の姿は、まるで天を劈(つんざ)くような激しい雷鳴が、一度ならず二度までも轟き渡り、大地を、そして人々の心を激しく震わせる様を象徴しています。「震」という文字は、雨の下に辰(ふるう、ととのうの意)があり、雷が鳴り響き、万物が震え動き、そして雨によって新たな秩序がもたらされる様を表します。 この卦は、予期せぬ衝撃的な出来事、突然の変化、あるいは内から突き上げるような強い衝動や覚醒の体験を示しています。それは、わたしたちに恐れや戸惑いをもたらすかもしれませんが、同時に、旧い殻を打ち破り、新しい意識や行動へと奮い立たせる、強力なエネルギーでもあるのです。

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卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ

1.原文(漢文): 震。亨。震來虩虩、笑言啞啞。震驚百里、不喪匕鬯。

2. 書き下し文: 震(しん)は亨(とお)る。震(しん)の来(きた)るや虩虩(げきげき)たれども、笑言(しょうげん)啞啞(あくあく)たり。震(しん)は百里(ひゃくり)を驚(おどろ)かすも、匕鬯(ひちょう)を喪(うしな)わず。

3. 現代語訳: 震(雷のような衝撃の時)は、(最終的には)願いは通る。雷が鳴り響く時は、人々は恐れおののくが、やがては笑い声が起こり、和やかな雰囲気になる。その雷鳴は百里四方に鳴り響き人々を驚かすほど強烈であっても、祭祀を行う者は、大切な祭器である匕(さじ)と鬯(香酒の入った器)を取り落とすことはない(冷静さを失わない)。

4. **ポイント解説:

この卦辞は、「震」という衝撃的な出来事が、最初は大きな恐れや混乱(震の来るや虩虩たれども)を引き起こすものの、最終的には事態が収拾し、安堵と喜び(笑言啞啞たり)、そして願いの成就(亨る)へと繋がる可能性を示しています。そして最も重要なのは、「震は百里を驚かすも、匕鬯を喪わず」という部分です。これは、どんなに激しい衝撃や混乱の中にあっても、真に大切なもの(匕鬯=祭祀における最も神聖な道具、ここでは個人の信念や使命、あるいは冷静な心)を失わず、しっかりと自分自身を保つことの重要性を教えています。その内なる不動の心があれば、必ずやこの衝撃を乗り越えることができるのです。

爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語

初九(しょきゅう):

震(しん)の来(きた)るや虩虩(げきげき)たり。後(のち)笑言(しょうげん)啞啞(あくあく)たり。吉(きち)。

1. 原文:震來虩虩。後笑言啞啞。吉。

2. 書き下し文:震(しん)の来(きた)るや虩虩(げきげき)たり。後(のち)には笑言(しょうげん)啞啞(あくあく)たり。吉(きち)。

3. 現代語訳:雷が鳴り響き、最初は恐れおののく。しかし、後には笑い声が起こり、和やかな雰囲気になる。吉である。
4. ポイント解説
「震」の始まり。突然の衝撃に、最初は誰もが恐れ、戸惑います(震の来るや虩虩たり)。しかし、この爻では、その衝撃が過ぎ去った後には、安堵感から笑い声が起こり(後に笑言啞啞たり)、事態は良い方向へ向かう(吉)ことを示しています。衝撃的な出来事も、適切に対処し、乗り越えれば、かえって良い結果をもたらすことがあるのです。

 

六二(りくじ):

震(しん)来(きた)りて厲(あやう)し。億(おしはか)りて貝(かい)を喪(うしな)い、九陵(きゅうりょう)に躋(のぼ)る。逐(お)うこと勿(なか)れ、七日(なぬか)にして得(う)。

1. 原文:震來厲。億喪貝。躋于九陵。勿逐、七日得。

2. 書き下し文:六二(りくじ)。震(しん)来(きた)りて厲(あやう)し。億(おもんぱか)りて貝(ばい)を喪(そう)し、九陵(きゅうりょう)に躋(のぼ)る。逐(お)うこと勿(なか)れ、七日(しちじつ)にして得(う)。

3. 現代語訳:雷のような衝撃が来て危うい。多くの財産(貝)を失うことを覚悟し、高い九つの丘(安全な場所)に避難する。失ったものを無理に追いかけてはならない、七日(一定期間)もすれば自然と取り戻せるだろう。
4. ポイント解説:
衝撃が具体的で、危険(厲し)が迫っている状況です。大切なもの(貝)を失うことを覚悟し、まずは安全な場所(九陵)へ避難することが賢明です。失ったものを焦って取り返そうとせず(逐うこと勿れ)、時が経つのを待てば(七日にして)、自然と回復したり、別の形で補われたりする(得)ことを示唆しています。困難な時には、まず身の安全と心の平静を確保し、焦らないことが大切です。

六三(りくさん):

震(しん)蘇蘇(そそ)たり。震(しん)の行(こう)眚(わざわい)なし。**
1. 原文:震蘇蘇。震行无眚。

2. 書き下し文:震(しん)蘇蘇(そそ)たり。震(しん)の行(おこない)には眚(わざわい)なし。

3. 現代語訳:
雷の衝撃で茫然自失となっている。しかし、その衝撃をきっかけとして行動を起こせば、災いはない。
4. ポイント解説:
度重なる衝撃や不安で、心が落ち着かず、茫然としている(震蘇蘇たり)状態です。しかし、この爻は陰位に陰爻があり、柔順ではあるものの、下の九二の陽爻からの助けも期待できます。もし、この衝撃をバネにして、恐れながらも何らかの行動を起こす(震の行)ならば、大きな災い(眚なし)を避けることができます。ショック状態から抜け出し、小さな一歩でも踏み出すことの重要性を示しています。

九四(きゅうし):

震(しん)遂(つい)に泥(どろ)に隊(お)つ。**
1. 原文:震遂泥。

2. 書き下し文:震(しん)遂(つい)に泥(でい)に隊(お)つ。

3.現代語訳
:雷のような勢いも、ついに泥の中に落ちて動けなくなってしまう。

4. ポイント解説:

この爻は陽爻ですが、上下を陰爻に挟まれ、その力が十分に発揮できない状態です。最初は勢いよく動き出した(震)ものの、周囲の状況や障害(泥)によって、その動きが完全に封じ込められ、身動きが取れなくなってしまっています。これは、才能や力があっても、それを活かすための適切な環境やサポートがなければ、成果を上げることが難しいことを示唆しています。

六五(りくご):

震(しん)往来(おうらい)して厲(あやう)し。億(おもんぱか)りて喪(うしな)うこと无(な)く、事(こと)有(あ)り。

1. 原文:震往來厲。億无喪、有事。

2. 書き下し文:。震(しん)往来(おうらい)して厲(あやう)し。億(おもんぱか)りて喪(そう)すること无(な)く、事(じ)有(あ)り。

3. 現代語訳:雷のような衝撃が次から次へとやって来て危うい。しかし、よくよく考えれば失うものは何もなく、むしろやるべきことがある。
4. ポイント解説
君主の位にありながら、度重なる衝撃(震往来して)にさらされ、常に危険(厲し)と隣り合わせの状況です。しかし、この爻は中正の徳を備え、冷静に状況を判断できます。よくよく考えれば(億りて)、本当に失うものは何もなく(喪うこと无く)、むしろこの危機を乗り越えるために、今まさにやるべき大切な仕事(事有り)があることに気づきます。困難な状況の中でも、冷静に本質を見極め、使命感を持って行動することの重要性を示しています。

上六(じょうりく)

:震(しん)索索(さくさく)たり。視(み)ること矍矍(かくかく)たり。征(ゆ)けば凶(きょう)。震(しん)其(そ)の躬(み)に于(おい)てせず、其(そ)の鄰(となり)に于(おい)てす。咎(とが)なし。婚媾(こんこう)言(げん)有(あ)り。**

1. 原文:震索索。視矍矍。征凶。震不于其躬、于其鄰。无咎。婚媾有言。

2. 書き下し文
:震(しん)索索(さくさく)たり。視(し)ること矍矍(かくかく)たり。征(ゆ)けば凶(きょう)。震(しん)其(そ)の躬(み)に于(おい)てせず、其(そ)の鄰(となり)に于(おい)てす。咎(とが)なし。婚媾(こんこう)には言(げん)有(あ)り。

3. 現代語訳
:雷の衝撃で震えおののき、周囲を不安げに見回している。このような時に進んでいけば凶である。もし、その衝撃が自分自身にではなく、隣人に及んでいるならば、自分に咎めはない。ただし、縁談などには多少の噂や障害があるかもしれない。
4. ポイント解説:
「震」の時の最終段階。度重なる衝撃で、心身ともに疲れ果て、震えおののき(震索索たり)、周囲を不安げに見回している(視ること矍矍たり)状態です。このような時に、無理に新たな行動を起こそうとすれば(征けば凶)、必ず失敗します。ただし、もしその衝撃の中心が自分自身ではなく、隣人や周囲の出来事であり、自分はそれに直接巻き込まれていないのであれば、大きな咎めはありません。しかし、縁談のようなデリケートな事柄には、多少の障害や噂話(婚媾には言有り)が伴うかもしれません。まずは心の平静を取り戻すことが先決です。

【震為雷(しんいらい)の「彖伝」】〜全体像〜

原文 彖曰。震亨。震來虩虩、恐致福也。笑言啞啞、後有則也。震驚百里、驚遠而懼邇也。出可以守宗廟社稷、以爲祭主也。

書き下し文 彖(たん)に曰(いわ)く、震(しん)は亨(とお)る。震(しん)の来(きた)るや虩虩(げきげき)とするは、恐(おそ)れて福(ふく)を致(いた)せばなり。笑言(しょうげん)啞啞(あくあく)たるは、後(のち)に則(のり)有(あ)ればなり。震(しん)は百里(ひゃくり)を驚(おどろ)かすとは、遠(とお)きを驚(おどろ)かして邇(ちか)きを懼(おそ)れしむるなり。出(い)でて以(もっ)て宗廟(そうびょう)社稷(しゃしょく)を守(まも)り、以て祭主(さいしゅ)と為(な)る可(べ)きなり。

現代語訳
彖伝は言う。「震は願いが通る」とある。(その理由はこうである。)雷が鳴り響き、人々が恐れおののくのは、その恐れ慎む心によって、かえって福を招き寄せるからである。その後、笑い声がして和やかになるのは、衝撃の後に、新しい法則や秩序が確立されるからである。「雷鳴が百里四方を驚かす」とは、遠くの者まで驚かせ、近くの者を恐れさせるほどの、大きな影響力を持つということだ。(このような衝撃の中でも冷静さを失わない者は)世に出て、国家の最も大切なものである宗廟や社稷を守り、祭祀を主宰する者となることができるのである。

大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方

1. 原文(漢文):象曰。洊雷、震。君子以恐懼脩省。

2. 書き下し文: 象(しょう)に曰(いわ)く、洊(しき)りに雷(らい)するは震(しん)なり。君子(くんし)以(もっ)て恐懼(きょうく)し脩省(しゅうせい)す。

3. 現代語訳: 象伝は言う。雷が繰り返し鳴り響くのが震の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、恐れ慎む心をもって、自らを修養し、反省する。
4. ポイント解説:
繰り返し轟く雷鳴(洊雷)は、人々に畏敬の念と恐れ(恐懼)を抱かせます。これを見た君子は、その衝撃的な出来事を、単に恐れるだけでなく、むしろ自分自身を戒め、内面を深く省み(脩省す)、徳性を養い、行いを改めるための、貴重な機会と捉えます。つまり、衝撃的な出来事や困難は、わたしたちが自己を見つめ直し、人間として成長するための、天からの警告であり、また導きでもある、という深い教えです。

【むすび】

震為雷の卦は、わたしたちの人生に突然訪れる「衝撃」や「危機」を、いかにして乗り越え、それを自己成長の糧としていくかという、力強くも深い智慧を授けてくれます。

  •  1. 「匕鬯(ひちょう)を喪(うしな)わず」
    – どんな衝撃の中でも、あなたの「核」となる信念を守り抜け: わたしたちが予期せぬ困難や大きな変化に直面し、心が激しく揺れ動く時、卦辞が教えるように、最も大切なのは、自分自身の「核」となる信念や価値観、あるいは守るべき大切なもの(匕鬯)を、決して手放さないことです。その内なる不動の軸があれば、どんな嵐の中でも自分を見失うことなく、必ずや平静を取り戻し、再び立ち上がることができます。
  • 2. 「恐れて福を致す」
    – 衝撃を「自己変革」のきっかけとする
    * 彖伝の言葉: 「震來虩虩、恐致福也。(震の来るや虩虩とするは、恐れて福を致せばなり)」にあるように 予期せぬ出来事や大きな変化がもたらす「恐れ」。わたしたちは、ついその感情から目を背けたくなります。しかし「彖伝」は、その「恐れ慎む心(恐懼)」こそが、わたしたちを驕りや怠慢から覚醒させ、自分自身のあり方を真剣に見つめ直させ、結果として「福」をもたらすのだと説きます。人生の長い道のりにおいて、時として訪れる衝撃は、わたしたちの生き方をリセットし、より本質的な成長へと導いてくれる、天からの荒療治とも言える、尊い機会なのです。
  •  3. 「逐(お)うこと勿(なか)れ、七日(なぬか)にして得(う)」
    – 失ったものを焦って追わず、自然な回復を信じて待つ: 六二の爻が教えるように、衝撃によって何か大切なものを失ったと感じても、焦ってそれを取り戻そうともがくのではなく、時には静かに時が過ぎるのを待ち、自然な形で状況が回復したり、あるいは別の形で新しいものがもたらされたりするのを信頼することも大切です。その「待つ」時間の中で、わたしたちは多くを学び、内なる力を養うことができるのです。
  •  4. 「震(しん)の行(こう)眚(わざわい)なし」「事(こと)有(あ)り」 – 恐れを乗り越え、今なすべきことに勇気をもって踏み出そう: 六三や六五の爻が示唆するように、たとえ衝撃や困難の只中にあっても、あるいはそこから抜け出しつつある時でも、わたしたちには「今、ここでなすべきこと(事有り)」が必ずあります。恐れや不安に心を支配されるのではなく、それを乗り越えて、勇気を持って目の前の課題に取り組み、小さな一歩でも行動を起こす(震の行)こと。それが、状況を好転させ、災いを遠ざけ、そしてわたしたち自身の力強く推進していくのです。

震為雷の時は、わたしたちの精神力、適応能力、そして何よりも内なる誠実さと勇気が試される時です。しかし、この卦は決してわたしたちを打ちのめすためだけにあるのではありません。むしろ、その激しい衝撃を通して、わたしたちを目覚めさせ、奮い立たせ、そしてより強く、より賢く、より成長した新しい自分へと生まれ変わるための、天からの力強いエールなのです。この「震」のエネルギーを、わたしたちの「日々新たに、益々よくなる」ための、ダイナミックな飛躍台としていきましょう。