【八卦の詳解】「離(り)」– 情熱の炎と真実の光、わたしたちの道を照らす『明知』の力
1. 卦象(かしょう): ☲

2. 名称(めいしょう): 離(り)
【離】– 天空の太陽、闇を照らす智慧の光
卦象と象徴
二本の力強い陽爻(—)が、その間に一本の柔順な陰爻(- -)を挟んでいる姿。これは、外側は明るく剛健でありながら、その内側は空虚で、何かを受け入れる性質を持っていることを表しています。まるで、燃え盛る炎の中心が空洞であるように、あるいは、万物を照らす太陽が、その内部では絶えず自身を燃やし続けているように。この形は、「離」の輝きが、何かを拠り所とし、「麗(つ)く(付着・依存する)」ことで初めてその力を発揮することを示唆しています。
自然界の象徴
火、太陽、日輪、光明
性質
明(めい:明るさ、明晰さ)、知(ち:知性)、明知、麗(れい:付着する、麗しい)、文明、目、見る、燥、飾る、競う、争う、むなしい
人物における象徴
中女(ちゅうじょ:次女)、美人、女優、画家、作家、学者
動物における象徴
鶴、雉(きじ)、飛鳥、亀、蟹、貝類
物質における象徴
甲冑、斧、刀、矢、瓶、網、飾物、文章
物価相場
激しい高騰の兆し、高値圏内である場合は長続きはしないとみる
病象
目や心臓という象意から心労、不眠症、逆上、火傷
離の「つく」という性質から伝染病など
急性で激痛を伴うとか、高熱、手当に急を要するものが多く、一定しない病勢を読み取れる
その他
天候 晴れ
季節 夏
方位 先天図 東 後天図 南
数 易数 3 五行数 2、7
時間 午前11時から、午後1時 丑の刻
色 赤 紫
味 苦味
物語
「離」とは、何よりもまず、天高く昇り、その光と熱で万物を遍く照らし、育む「太陽」のエネルギーです。それは、物事の本質を見抜く鋭い「知性」であり、真実を明らかにする「明晰さ」であり、そして、芸術や学問、文化といった人類が築き上げてきた「文明」の輝きそのものを象徴します。 しかし、同時に「離」には、「麗(つ)く」=付着する、依り頼む、という意味も含まれています。火が燃え続けるためには薪が必要なように、わたしたちの「離」の輝きもまた、正しい知識、揺るぎない真実、そして善き理念といった、確かな「拠り所」に付着することで、初めてその力を最大限に、そして正しく発揮することができるのです。
「繼明(けいめい)」の精神 – 光を受け継ぎ、四方を照らす使命
「離」のエネルギーが二つ重なると、易経六十四卦の第三十卦「離為火(りいか)」となります。その卦の性質を説明する大象伝(たいしょうでん)には、「離」の徳の本質を力強く示す、**「繼明(けいめい)」**という言葉があります。
「象(しょう)に曰(いわ)く、明(めい)両(ふた)つ作(おこ)るは離(り)なり。大人(たいじん)以(もっ)て明(めい)を繼(つ)ぎて四方(しほう)を照(て)らす。」 (象伝は言う。明るさが二つ重なって生じるのが離の形である。徳の高い大人(たいじん)はこれに倣(なら)い、その明知の光を受け継ぎ、さらに輝かせ、世の中の隅々まで照らし出す。)
「繼明」とは、単に自分が一時的に輝くことではありません。それは、先人たちが築き上げてきた知恵や真理の光を、まずわたしたち自身が謙虚に「受け継ぎ」、それを自分の中でさらに探求し、燃え上がらせ、そしてその尊い光を自分だけのものとせず、社会や世界の隅々(四方)まで「照らし出す」という、崇高な使命感を表しています。 学び(インプット)、輝き(自己の昇華)、そして分かち合う(アウトプット)。この絶え間ない光のリレーこそが、「離」の徳が目指す、最も美しい姿なのです。

【わたしたちと「離」の力】– 内なる太陽を目覚めさせる、3つのヒント
では、わたしたちはこの明るく、情熱的な「離」のエネルギーを、日々のために、どのように活していけば良いのでしょうか。
- ヒント1:探求心という「薪(まき)」を、心の炎にくべ続ける 火が燃え続けるためには、常に新しい薪が必要です。同様に、わたしたちの内なる知性の光(離)を輝かせ続けるためには、常に新しい「学び」という薪をくべ続けることが不可欠です。本を読む、新しいスキルを学ぶ、様々な人と対話し、異なる視点に触れる、そして日常のあらゆる出来事に対して「なぜ?」と問いかける。その尽きることのない探求心こそが、あなたの知性の炎をより高く、より明るく燃え上がらせる、かけがえのない燃料となるのです。
- ヒント2:「正しさ」に麗(つ)く – あなたの情熱を、真に価値あるものへと結びつけよう あなたの持つ情熱や、何かを成し遂げたいという力強いエネルギーは、何に「麗(つ)いて」いますか? 「離」の智慧は、その素晴らしい力を、正しい理念、善なる目的、そして誠実な人間関係といった、真に価値あるものに結びつけることの大切さを教えています。もしあなたの情熱が、単なる自己満足や、一時的な欲望に「麗いて」いるとしたら、その炎はすぐに消えるか、あるいは周囲を傷つけてしまうかもしれません。しかし、もしそれが、誰かを幸せにしたい、社会をより良くしたいといった、温かく大きな目的に「麗いて」いるならば、あなたの情熱は、周囲を照らす温かい光となります。
- ヒント3:「明德(めいとく)」を昭(あき)らかにす – あなたの輝きを、惜しみなく周囲と分かち合おう 易経は、わたしたちが内面で磨き上げた素晴らしい徳(明德)を、隠すのではなく、むしろ積極的に外に現し(昭かにす)、その光を分かち合うことを奨励しています。あなたが学んだこと、気づいたこと、そしてあなたが持つ優しさや思いやり。それらを、言葉や行動を通して、あなたの周りの人々と分かち合ってみませんか。あなたのその一つの「明かり」が、誰かの道を照らし、心を温め、そして社会全体をより明るい場所へと変えていく、「益々善成」の尊い循環を生み出していくのです。
【むすび】光は、わたしたちの内にある – 闇を照らし、未来を創る「離」の力
「離」の智慧は、わたしたちが人生の闇に迷い、進むべき道が見えなくなった時、その道を明るく照らし出す力強いコンパスとなり、あるいは、心が冷え切ってしまった時には、再び行動への情熱を燃やすための、消えることのない種火となります。
そして何よりも大切なのは、その光が、どこか遠い特別な場所にあるのではなく、今この瞬間も、わたしたち一人ひとりの心の中に、知性として、情熱として、そして良心として、確かに宿っているということです。
さあ、わたしたちも自分自身の内なる太陽を目覚めさせ、その知性と情熱の光で、自分自身の人生を、そしてわたしたちが関わる世界を、より明るく、より温かく、そしてより希望に満ちた場所へと、今日この瞬間から照らしていきましょう! あなたが輝けば、世界も輝くのです。