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【八卦の詳解】「艮(ごん)」– 不動の山に学ぶ、『止まる』ことの力と内なる静寂

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【八卦の詳解】「艮(ごん)」– 不動の山に学ぶ、『止まる』ことの力と内なる静寂

1. 卦象(かしょう):

2. 名称(めいしょう): 艮(ごん)

【艮】– 全てを見下ろす山、不動の心の象徴

卦象と象徴

二本の柔順な陰爻(- -)の上に、一本の力強い陽爻(—)が蓋をするように位置している姿。これは、下から湧き上がってくる様々な動きや欲望を、一番上にある確固たる陽の意志で、どっしりと「止めている」様を表しています。

自然界の象徴

性質

止(し:止まること)、静止、篤実(とくじつ:誠実で情が厚いこと)、安定、高尚、頑固、慎重、蓄える、貯める、退く、遠慮、謝絶、

人物における象徴

少男(しょうなん:末の息子)、賢人、裁判官、神主、住職

動物における象徴

犬、竜、虎、豹、猪、蛇、狼、象、食肉目(牙の鋭い動物)

物質における象徴

城郭、家、門、塀、墳墓、石、丘、牀(木製のベッド)、柵、堅い木、節の多い木、固い木の実、草の実

物価相場

高く天井にとどまり、動かぬ状態や、高値を極めて下落に向かうとみたりします

病象

身体全体、鼻、背中、腰、額、手足の関節、指などが艮の卦象
動かないという意味から関節不全、半身不随、骨折、腫瘍や癌といった病象でもある
五行では消化器系にあたる

治り難く、頑固な長期疾患、慢性化の傾向がある

その他

天候 薄暗い曇天 長雨の場合は雨をとどめて晴れに移る

季節 晩秋〜初春

方位 先天図 北西 後天図東北

数 易数7 五行数 5、10

時間 午前1時から5時まで 丑寅の刻

色 黒 黄色

味 甘味

物語

「艮」とは、何よりもまず、天に向かってそびえ立ち、決して動じることのない「山」のエネルギーです。それは、あらゆる変化や喧騒から距離を置き、ただ静かに、そして雄大に「そこに在る」という、絶対的な安定感と存在感を象徴します。 わたしたちの心における「艮」は、外部の刺激や、内から湧き上がる感情の波に、いたずらに振り回されることなく、自分自身の中心を保ち、静かに状況を観察する力です。それは、行動を止める「停止」であると同時に、心を一つのことに集中させ、深く思索する「静止」でもあります。そして、その静寂の中からこそ、物事の本質を見抜く深い洞察力や、次の一歩への確かなエネルギーが生まれてくるのです。

「思(おもい)其(そ)の位(くらい)を出(い)でず」の智慧 – 今、ここに心を留める

「艮」のエネルギーが二つ重なると、易経六十四卦の第五十二卦「艮為山(ごんいさん)」となります。その卦の性質を説明する大象伝(たいしょうでん)には、「艮」の精神を実践するための、非常に具体的で深い智慧が記されています。

「象(しょう)に曰(いわ)く、兼(か)ぬる山(やま)は艮(ごん)なり。君子(くんし)以(もっ)て思(おもい)其(そ)の位(くらい)を出(い)でず。」 (象伝は言う。山が幾重にも連なり、どっしりと静止しているのが艮の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、その思い(思考)を、自分自身の置かれた立場や役割(位)の範囲から逸脱させないようにする。)

「思其の位を出でず」とは、自分自身の思考や関心を、現在の自分の立場、役割、そして責任の範囲内に、意識的に留めるということです。わたしたちの心は、放っておくと、過去の後悔、未来への不安、あるいは自分にはコントロールできない他者の問題など、様々な場所へとさまよいがちです。 しかし、「艮」の智慧は、そのような心の散漫さを戒め、まずは「今、ここ」で、自分自身の本分と、なすべきことに心を集中させることの重要性を教えています。その不動の姿勢こそが、心の平安を保ち、現実を確かなものにしていくための、揺るぎない土台となるのです。

 

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【わたしたちと「艮」の力】– 動く世界の中で「止まる」勇気と、3つのヒント

では、わたしたちはこの静かで、しかし何よりも強靭な「艮」のエネルギーを、常に動き続ける現代社会の中で、日々のために、どのように活していけば良いのでしょうか。

  • ヒント1:意識的な「静止の時間」を、一日の予定に組み込む わたしたちの日常は、行動(Do)の予定で埋め尽くされがちです。しかし、「艮」の智慧は、意識的に「何もしない時間(Be)」、つまり「止まる時間」を設けることを促します。それは、朝の5分間の瞑想かもしれませんし、昼休みに公園のベンチで静かに空を眺める時間、あるいは寝る前に、ただ自分の呼吸に耳を澄ませる時間かもしれません。その静かな「止まる」時間の中で、わたしたちは心身をリセットし、自分自身との繋がりを取り戻し、新たな活力を得ることができるのです。
  • ヒント2:「其(そ)の背(せ)に艮(とどま)りて、其(そ)の身(み)を獲(え)ず」 – 感覚や欲望と、賢明な距離を置く 艮為山の卦辞が示すように、時には、わたしたち自身の衝動的な欲望や、次から次へと湧き上がる感情(身)から、意識をそっと離し(背に艮まり)、それらと距離を置いてみましょう。感情に飲み込まれそうになった時、衝動買いをしそうになった時、あるいは怒りの言葉を口にしそうになった時。一歩引いて、ただその心の動きを「観察」する。その「止まる」という選択が、わたしたちを多くの後悔から守り、より賢明で、穏やかな道へと導いてくれます。
  • ヒント3:「其(そ)の輔(ほお)に艮(とどま)る。言(げん)序(じょ)有(あ)り」 – 口を止めて、言葉に秩序をもたらす 艮為山の爻辞が教えるように、口(輔)を止める、つまり「沈黙」を賢く使うことも、「艮」の重要な実践です。何かを言う前に、一呼吸置く。相手の言葉を、最後まで遮らずに聞く。本当に伝えるべき言葉を、慎重に選ぶ。その「言葉の節制」が、わたしたちのコミュニケーションに秩序と深みをもたらし、より良い人間関係を育むことに繋がります。

【むすび】不動の山のように、静けさの中に真の強さを見出す

「艮」の智慧は、わたしたちに、常に動き続けることだけが前進ではない、という大切な真実を教えてくれます。時には勇気を持って「止まる」こと。その静寂の中で、自分自身の内なる声に耳を澄まし、足元を見つめ直し、そして次に踏み出すべき一歩のための、確かなエネルギーを養うこと。

それは、決して停滞ではありません。むしろ、次なる大きな飛躍のための、最も確実で、最も賢明な準備なのです。 わたしたちの旅もまた、この山のような不動の落ち着きと、その静寂の中に満ちる豊かな智慧に支えられてこそ、真に揺るぎないものとなるでしょう。

さあ、わたしたちも、日常の喧騒の中に、自分だけの「どっしりと構える山の時間」を見つけてみませんか? その静けさの中にこそ、わたしたちを本当に強くし、そして実り豊かにしてくれる、かけがえのない宝物が眠っているのです。