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【易】第12卦「天地否(てんちひ)」– 閉塞の時に内を養い、やがて来る泰平に備える

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「天地否(てんちひ)」– 閉塞の時に内を養い、やがて来る泰平に備える

 

1. 卦象(かしょう):

2. 名称(めいしょう): 天地否(てんちひ)

4. 【この卦のメッセージ】 
上卦(じょうか):乾(けん) – 天、創造、剛健、父性、君主
下卦(かか):坤(こん) – 地、受容、柔順、母性、大衆
全体のイメージ: 力強く上昇しようとする天(乾)が上にあり、万物を包容し下降しようとする地(坤)が下にある。これは、前の卦「地天泰」とは陰陽の位置が全く逆の形です。天の陽の気はますます上へ、地の陰の気はますます下へと、互いに離れ去ろうとするため、天地の気が交わらず、万物の生育は止まり、閉塞感と停滞が支配する状況を象徴しています。「否」という文字は、「塞がる」「通じない」「否定」といった意味合いを持ちます。 君主(天)は民(地)の声を聞かず、民もまた君主の徳に浴することができない。あるいは、わたしたち個人の内面において、理想(天)と現実(地)、精神(天)と肉体(地)が乖離し、調和が失われている状態を表しています。これは、物事が思い通りに進まず、努力が報われにくい、忍耐と内省が求められる時です。

 

4.1. 卦辞(かじ)– この卦全体のテーマ

原文(漢文):否之匪人。不利君子貞。大往小來。

書き下し文:否(ひ)は人(ひと)に匪(あら)ず。君子(くんし)の貞(てい)に利(よろ)しからず。大(だい)往(ゆ)き小(しょう)来(きた)る。

現代語訳: 否(閉塞)の時は、人の力ではどうにもならない(あるいは、人の道が通じない)。君子が正しい道を守り通そうとしても利益はない。大きなもの(陽の気、善きもの)が去り、小さなもの(陰の気、悪しきもの)がやって来る。

ポイント解説:

この卦辞は、「否」の時の厳しさを率直に伝えています。「匪人(人にあらず)」とは、この閉塞感が特定の人間の悪意によるものではなく、天地自然の巡り合わせ、あるいはどうにも抗いがたい時運であることを示唆します(または、小人がはびこり君子の道が通じない時とも解釈されます)。このような時は、君子が正しい道を守ろうとしても(君子の貞)、その努力は報われにくく、むしろ危険が伴うため、積極的に行動することは不利です(利しからず)。陽の気や善い力は衰え(大往き)、陰の気や悪いものが勢いを増す(小来る)時なので、耐え忍び、内面を充実させることが求められます。

4.2. 爻辞(こうじ)– 各爻(こう)が示す変化の機微と物語

初爻:

茅(ちがや)を抜(ぬ)くに茹(じょ)たり。其(そ)の彙(るい)を以(もっ)てす。貞(てい)なれば吉(きち)にして亨(とお)る。

原文:拔茅茹、以其彙。貞吉、亨。

書き下し文:茅(ぼう)を抜(ぬ)くに茹(じょ)たり。其(そ)の彙(い)を以(もっ)てす。貞(てい)なれば吉(きち)にして亨(とお)る。

現代語訳:茅(ちがや)の根を引き抜くと、他の根も一緒になってぞろぞろと抜けてくる。その仲間と共に正しい道を守れば、吉であり願いは通る。

ポイント解説:

「否」の時の始まりですが、意外にも吉の兆しが見えます。これは、閉塞状況の中にあっても、志を同じくする仲間(其の彙)と結束し、共に正しい道(貞)を守り抜こうとするならば、困難な状況を打開し、やがては良い結果(吉、亨る)を得られる可能性を示しています。茅の根のように、悪しきものを根こそぎ取り除くためには、まず仲間と団結することが重要です。

二爻:

承(う)くるを包(つつ)む。小人(しょうじん)は吉(きち)。大人(たいじん)は否(ふさ)がるも亨(とお)る。

原文:包承。小人吉。大人否亨。

書き下し文:承(しょう)を包(ほう)す。小人(しょうじん)は吉(きち)。大人(たいじん)は否(ひ)なれども亨(とお)る。

現代語訳:(目上の者の意向を)包み込み、受け入れる。徳の低い小人物であれば、これに甘んじて吉とするだろう。しかし、徳の高い大人物は、閉塞した状況にあっても、その志はいつか通じる。

ポイント解説:**

この爻は、閉塞した状況の中で、上の意向にただ従う(承くるを包む)ことで、一時的な安泰を得ようとする姿勢を示します。徳の低い小人物であれば、それで満足し吉とするかもしれません。しかし、真の大人(たいじん)は、たとえ現状が閉塞(否)していても、その高い志や信念を曲げることなく持ち続けることで、やがてはその願いが通じる(亨る)時が来ることを知っています。内なる信念を貫くことの大切さを示唆しています。

三爻:

羞(はじ)を包(つつ)む。

原文:包羞。

書き下し文:六三(りくさん)。羞(しゅう)を包(ほう)す。

現代語訳:恥を内に包み隠している。

ポイント解説:

不相応な地位にいたり、あるいは不正な手段で何かを得たりして、内心では恥ずかしい思い(羞)を抱えながらも、それを隠して(包む)いる状態です。これは、非常に不安定で、いつその恥が露見するか分からない危険な状況です。「否」の時には、このような不誠実なあり方は、さらなる困難を招きかねません。正直さと誠実さがいかに重要であるかを逆説的に教えています。

四爻:

命(めい)有(あ)りて咎(とが)なし。疇(たぐい)祉(さいわい)を離(つら)ぬ。

原文:有命无咎。疇離祉。

書き下し文:命(めい)有(あ)りて咎(とが)なし。疇(たぐい)は祉(さいわい)を離(つら)ぬ。

現代語訳:天命を受けて行動すれば、咎めはない。志を同じくする仲間たちも、その幸福を共に受けるだろう。

ポイント解説:

「否」の閉塞した状況が、いよいよ変化し始める兆しが見える爻です。九四は陽爻であり、正しい天命(命有り)を受けて、私心なく行動するならば、咎めはありません。そして、その正しい行動は、自分だけでなく、志を同じくする仲間たち(疇)にも幸福(祉)をもたらし、共に閉塞を打ち破っていく力となります。正しい目的のための行動が、状況を好転させる鍵です。

五爻:

否(ひ)を休(や)む。大人(たいじん)は吉(きち)。其(そ)れ亡(ほろ)びん其(そ)れ亡(ほろ)びんとて、苞桑(ほうそう)に繋(か)く。**

原文:休否。大人吉。其亡其亡、繋于苞桑。

書き下し文:否(ひ)を休(や)む。大人(たいじん)は吉(きち)。其(そ)れ亡(ほろ)びん其(そ)れ亡(ほろ)びんとて、苞桑(ほうそう)に繋(か)く。

現代語訳:閉塞の時を終わらせる。徳の高い大人物にとっては吉である。(常に)「滅びるかもしれない、滅びるかもしれない」と警戒心を怠らず、堅固な桑の根株に繋ぎ止めるように、慎重に事を進める。

ポイント解説:

いよいよ閉塞した状況(否)が終わりを告げ、泰平の時へと転じる重要な転換点です。徳の高い大人(たいじん)が主導することで、この変化は吉となります。しかし、ここで最も重要なのは、「其れ亡びん其れ亡びん」という強い警戒心を持ち続けること。つまり、状況が好転しても決して油断せず、まるで大切なものを堅固な桑の木に繋ぎ止めるように(苞桑に繋く)、常に慎重さを失わないことです。この戒めの心があってこそ、新たな泰平を長く維持できます。

上爻:

否(ひ)を傾(かたむ)く。先(さき)には否(ひ)にして後(のち)には喜(よろこ)びあり。

原文:傾否。先否後喜。

書き下し文:否(ひ)を傾(かたむ)く。先(さき)には否(ひ)にして後(のち)には喜(よろこ)びあり。

現代語訳:閉塞の状況を完全に傾け、終わらせる。最初は閉塞していたが、後には喜びが訪れる。

ポイント解説:
「否」の時が完全に終わりを告げ、新しい時代が到来することを示しています。これまでの困難や停滞(先には否にして)は過去のものとなり、これからは喜びと希望に満ちた未来(後には喜びあり)が待っています。努力が報われ、苦労が実を結ぶ、まさに大転換の時です。諦めずに耐え忍び、正しい努力を続けてきたことの結果です。

4.3. 大象伝(たいしょうでん)– この卦の形から学ぶ、理想のあり方

原文(漢文): 象曰。天地不交、否。君子以儉德辟難、不可榮以祿。

書き下し文: 象(しょう)に曰(いわ)く、天地(てんち)交(まじ)わらざるは否(ひ)なり。君子(くんし)以(もっ)て德(とく)を儉(つつま)やかにし難(なん)を辟(さ)け、祿(ろく)を以(もっ)て榮(さか)うべからず。

現代語訳: 象伝は言う。天と地が交わらず、気が通じないのが否の形である。君子(人格者)はこれに倣(なら)い、徳を内に秘めて倹約に努め、困難を避け、名誉や利禄によって栄達を求めようとはしない。

ポイント解説:

天地の気が交流せず、万物が停滞するのが「否」の象徴です。これを見た君子は、このような閉塞した時期には、積極的に外に向かって行動するのではなく、むしろ自分自身の徳を内に秘め(德を儉やかにし)、質素倹約に努め、無用な困難や争いごとを避ける(難を辟け)ことを選びます。そして、地位や俸禄といった世俗的な栄誉(祿を以て榮うべからず)を求めることなく、静かに内面を充実させ、時が再び好転するのを待つのです。これは、逆境における賢明な処世術であり、内なる力を養うための大切な期間と捉えることができます。

5. むすび

天地否の卦は、わたしたちの人生における「停滞期」や「逆境」を、どのように捉え、どのように乗り越えていくべきかという、深く、そして希望に満ちた智慧を授けてくれます。

  • 1. 「否(ひ)」の時こそ、内なる「徳」を磨き、静かに力を養おう: わたしたちの人生でも、努力が報われなかったり、物事が思うように進まなかったりする「否」の時期は必ず訪れます。そんな時、焦ったり、無理に状況を変えようともがいたりするのではなく、大象伝が教えるように、まずは自分自身の内面(徳)を倹約(つまり、華美を求めず、本質を大切にする)し、静かに力を蓄える時と捉えましょう。読書をしたり、新しいことを学んだり、心身を整えたり…。この時期の内なる充実は、必ず未来の飛躍へと繋がります。
  • 2. 「其れ亡びん其れ亡びんとて、苞桑(ほうそう)に繋(か)く」 – 好転の兆しが見えても、油断しない: 九五の爻は、閉塞が終わりを告げ、良い状況へと転じる時にも、常に「滅びるかもしれない」という健全な危機感を持ち、堅固な桑の木に繋ぎ止めるように慎重さを失わないことの重要性を教えています。わたしたちも、状況が良くなったからといって油断せず、常に謙虚な心を忘れず、得られた平和や成功を維持するための努力を続けることが、道を確かなものにするのです。

天地否の時は、わたしたちにとって、内面を見つめ、真の強さを養い、そして変化の本質を学ぶための、貴重な「学びの時」です。この困難な時期を、古代の叡智を羅針盤として賢明に乗り越えることで、わたしたちは人間としてより深く成長し、やがて訪れる「泰」の時を、より大きな喜びと感謝をもって迎えることができるでしょう。